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「果乃、俺、挑戦するよ」
今日初めて、果乃子に新人賞のことを話した。
果乃子は驚いた顔をしたけど、すぐに怪しげな笑みを俺にくれた。
何度も心臓を掴まれたその笑み。
「…そそられる」
果乃子は舌なめずりした。
「富士男くんはいつもかっこいいけど、今日の富士男くんは、めちゃくちゃにしたい衝動に駆られる」
普段の果乃子の変な日本語はどこにもなく、29歳のしっとり濡れた女という種類の蝶がそこにはいた。
「…果乃、男みたいだね」
「わたしはずっと富士男くんを欲してるから」
俺は身体の繋がりだと思い、顔を背けてしまった。
「違う、富士男くん。わたしは富士男のすべてを食べてしまいたいと、いつも思ってる。身体だけがすべてじゃない。………それに我慢したからこその快楽もあるし」
嗚呼、俺はこの儚かなく見える蝶にいつか全てを食いつくされるんだろうな。
心地好い諦めが俺のこころを締め上げていった。
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