慣れてます

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ここは創作料理料理の店「つむじ風」。とにかく料理が旨い。料理が酒を呼び、酒が料理を呼ぶ。その相乗効果で狭い路地にあるにも関わらず、店は繁盛している。 オーナーの前田聖(ひじり)さんと奥さんの由真(ゆま)さんが切り盛りしてる小さな店。接客は由真さんの担当で、俺は誰の目に触れることもない厨房で簡単な料理を作ることもあれば、殆どの時間は皿洗いをやっている。これが俺の副業。 「戻りました。すみませんでした」 裏口から入ると聖さんに声をかける。 「おう。果乃子ちゃん、なんだって?」 先程の古高さんは店の常連で聖さん夫婦とも仲がいいらしい。 「ただの告白でした」 不細工として目立たない様に生きてるのだから、構わないでほしい。面倒なのはごめんだ。 のけ反る格好のままの聖さんを横目に溜まった皿を片付ける。 「えっと…富士男が…果乃子ちゃんに…告白したのか。そうだよな、ああ、そうだ」 「違います。古高さんが俺に告白したんです」 「はぁ???」 厨房に料理を取りに来た由真さんが 「聖、声大きいよ」 と眉をひそめて注意する。 俺は女性というものを信じていないが、由真さんだけは特別だった。 率直だけど、人に優劣をつけない普段の言動に好感が持てた。 だが断じて恋心ではない。 ただ心を許してるだけ。
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