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今日も出勤するとまたもや古高さんから呼び出されていた。
聖さんは古高さん贔屓(ひいき)だから直ぐに言うことを聞く。
「いってやれ。富士男」
俺はわかりやすく溜め息をつく。
「仕事中ですよ?仕事中に仕事以外の件で呼び出すなんて常識外れもいいとこです」
「果乃子ちゃんは特別。早くいってやれよ」
「…はい」
聖さんはオーナーだし、年齢も15上だ。従うしかない。
「お待たせしました」
なるべく事務的に古高さんの後ろ姿に声をかける。
寒い中外で待っていたせいだろうか古高さんの肩が微かに震えている。
「お仕事中に何回もごめんなさい」
わかっているなら是非ともやめて欲しい。あなたが寒ければ俺も寒い。
「昨日の件ですか」
「…はい。あたしじゃ駄目ですか?」
はいはい。そんなくるりんとした目でうるうる上目遣いをしたって、心は悪魔なんでしょ。…しかしなかなかしつこい女性だ。からかわれる気がないことを明確に示さなければならない。
「醜い蛙が実は王様だったっていうオチは俺に限ってありませんから」
「…え…グリム童話ですか」
「はい。俺はずっと醜い蛙です」
この不毛な会話が早く終わるように。
「それとも俺に貢がせるのが目当てだとしたら、俺の生活はギリギリですから、それも期待外れですね」
「或いはご自分を引き立てるアイテムとして俺を活用しようと思ってるんでしたら、好奇の目に曝されるだけであなたに何の得もありませんよ」
本当に終わらせたい。溜まっていく皿が目に浮かぶ。その分帰るのも遅くなる。その思いで真実を、思い切り伝えた。
その途端。
ドスっ
鈍い音と共に臀部(でんぶ)に痛みが走る。
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