プロローグ

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何もできないんだ。 臆病なんだ。 弱虫なんだ。 不安で怖くてこみあげてくる涙さえ拭えない。 妹の泣き声が聞こえてきた。 本当は助ける事だってできたのに。 中が熱気で包まれても、決して外にはでない。あの声、音、すべてが僕を追い詰める。 布団を握る力を強める刹那、チリンと鈴の音がした。 「ヒワ…いたんだね、ごめん気付かなくて」 僕はそっとヒワの黒い毛をなでて、抱き寄せた。にゃあ、と一声鳴くとのどをゴロゴロさせて僕の腕の中におさまった。ヒワの猫特有の匂いを嗅いだら、なんだか鼻の奥がツンとした。 あぁ僕はいつまでこうしているのだろう。 ふいに僕の頭の中を何かが過ぎった。 キラキラ輝いている川と冒険心溢れる森。そして何より暖かな笑顔があるあの場所。 「おじいちゃんの家…」 僕の脳裏を過ぎったのはあの懐かしい異郷の地、おじいちゃんとおばあちゃんの家だった。 ーそうだ、おじいちゃんとおばあちゃんの家にいこうー
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