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土曜日、バイトのあと、明日は休みだから…彼に会った。 バイト帰りにかかってきた電話。 帰るついでだからいいかなって、そんな…。 会わないほうがいいってわかってる。 私の在り方と彼の在り方は違いすぎる。 私は遊べない女だ。 恋愛なんてしたこともなければ、男友達なんてものもいない。 初めてのキスもえっちも彼だけど…。 そんなの…こだわるつもりなんか…。 思っているのに、電話越しに囁かれる言葉にときめいている。 もう一度ふれられてみたくなる。 後悔するのは目に見えてわかっているのに。 繁華街にあるファッションビルの入口で待ち合わせ。 私はビルの壁に少し寄りかかって俯いて、帰るか待つかを迷っていた。 23時くらいって言ったから…、5分過ぎたら帰ろう。 私は携帯の時計に視線を落として、時間がくるのを待つ。 5分過ぎて。 私は足早に歩き出す。 ファッションビルから少し離れた信号で信号待ちで立ち止まる。 何気なく顔をあげた。 横断歩道の向こう側に彼がいた。 気がつかれる前に逃げようと、私は別の道へ歩き出す。 横断歩道の信号が青に変わり、私の腕は掴まれて振り返る。 見上げると彼がいた。 私を見て軽く笑みをその顔にのせている。 「もうちょっとくらい待てよ、おまえは。…飲みにでもいく?」 「私、まだ19です」 「今日が誕生日にしておけば?飯食った?」 「…まだ」 「じゃあ居酒屋で。給料前だから割り勘な」 彼は私の腕から手に握り直して、私の手をひいて歩き出す。 即決、強引だ。 自己中と言えるかもしれない。 私は歩きながら、繋がれた手に視線を落として、その大きな手にどきどきしてしまう。 広い肩幅の背中。 少し伸びたブルーブラックの髪。 私と彼は不釣り合いだと思う。 居酒屋で彼は飲む。 割り勘は飲まない私には公平ではないと思う。 損をしてる。絶対。 私は冷や奴にお箸をつけて、静かに食べる。 食べていると視線を感じて。 顔を上げると彼がじっと私を見ていた。 ……不公平でもいいから酔いつぶれてしまってほしい。 酔っ払いのほうが相手をしやすいかもしれない。
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