Secret space

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人はなぜ恋愛をしたがるのか。 その答えなんて単純なものだろう。 晃佑が家にいない時間くらいはわかっている。 残りの荷物をその時間に取りにいくこと数回。 5ヶ月一緒に暮らしていただけで、私の私物はけっこうな量持ち込まれていた。 洗面台の歯ブラシをゴミ袋に。 私が使っていたお箸やお茶碗もゴミ袋に。 私が私の趣味で買ってきたキッチン用品も、晃佑の部屋には似合わないからゴミ袋に。 2つ揃えた食器は別にいいかとおいておく。 私の趣味で買ってきたカーテンを、晃佑の部屋にもともとかかっていたものに取り替えて。 ベッドのシーツも私がここで暮らす前のものに取り替える。 私の痕跡が多すぎる気がしないでもない。 それだけ私はこの部屋を私の家として使っていたということだろう。 …捨てにくいよね、そりゃ。 なんて思いながら、晃佑の手間にならないように、部屋をもとの姿へと戻して、ゴミをまとめて。 忘れ物がないか見渡すと、アクセサリーケースが見えた。 めちゃくちゃ高いものでもないけれど、ピアスをおいていくのも捨てるのも微妙。 持って帰ろうと、そこに入れたピアスをとろうとしたらなかった。 ピアスのケースごとない。 晃佑がおきそうなところを探してみたけど、部屋の中にはないようだ。 …なくしたっていう嘘がバレてしまっている気がする。 また嘘つき女と言われてしまう。 ……嘘つきだけど。 アクアマリンのピアスのほうは残っていて、一度もつけたこともないし、そのままにしておいた。 私に買ってきてくれたことも、私へのプレゼントだということもわかっている。 受け取るだけ受け取って、使うことなくいた。 アクアマリンのフリンジピアス。 耳元でシルバーと薄い青が揺れるのはきれいだろうなとは思った。 私は私の置き土産、この季節には使うことのないニット帽を嫌でもわかるくらいの場所において、ゴミを持って部屋を出る。 鍵をかけて、そのキーホルダーをはずして。 鍵だけ郵便受けに落とした。 カチャンっと音が響いた。 しばらくその郵便受けを眺めてから私はゴミを持って歩き出す。 捨てる晃佑との思い出を持って歩き出す。
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