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彼にはどれだけの女友達がいるのかわからない。 どうせつきあっても彼は私のものにならないと思う。 興味はあるけど。 好きになってしまいたくない相手だと思う。 「…友達で」 私はそう答えた。 つきあうことを軽く言われたくもない。 言われたくないのは…、その理由はきっと…。 もう好きになってしまっているから。 「もう連れだし」 私は彼の友達のつもりもない。 居酒屋でそんなふうに話しながら食べていると、彼は声をかけられる。 どれだけの友達が彼にいるのか。 声をかけてくる人はたくさんいて、彼は笑ってその人と話し出す。 私は知らない人だし、黙って食べているだけ。 彼は次から次へと声をかけられている。 私は食べるものもなくなって、お手洗いに席を立った。 私の手をいきなり彼が掴んだ。 少しびっくりした。 「どこいくの?」 「…お手洗いに」 「帰るときは言えよ?デートなんだし」 これのどこをどう見ればデートなのか教えて欲しい。 私は何も言わずに頷いて、彼は満足げに私の手を離す。 …私は彼がわからない。 お手洗いから戻ると、まだ彼は私の知らない人と話していた。 席に戻ろうとする私を捕まえて、その足の上に乗せて。 逃げようとしても離してくれない。 誰かと話していても、気にはかけてくれているようだ。 けど、これは恥ずかしい。 真っ赤になって逃げようとしまくると、私は背後から両腕でしっかりと押さえられて、足も足で押さえられた。 彼の話相手がいなくなると、私は頭を撫でまくられてキスを頭にされまくる。 「酔ってるっ?」 「ちょっとだけ。家帰ろうか?家でいっぱいしよ?」 「なにをっ?」 「イチャイチャ」 私は彼とつきあうと答えたつもりはない。 私は彼の彼女じゃないはずだ。 しかもこのやり取り、前と同じだしっ。 私は耳を舐められて思わず声をあげそうになって、彼の私の体をくるむ腕をぎゅっと掴む。 「チカ、かわい」 笑顔でそんなふうに言わないで欲しい。 そして私はトモカだ。 「ちーか。帰ろう?裸で抱き合ってるほうが気持ちよくない?」 「私は晃佑の彼女じゃないっ」 「もう彼女でいいだろ。早くしないとまた誰かに捕まる。いこ?」 即決、強引。 彼は私の鞄を持って、私の手をひいて歩き出す。 …酔っ払い。 また朝には記憶もないくせに。
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