Special

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人混みの中、晃佑の姿を探して。 あっちを見たり、こっちを見たり。 人にぶつかりそうになりながら、薄暗い照明の中を歩く。 どこかに移動してしまったのか、見当たらなくて。 はぐれて迷子になってしまった気分で、どうしようって思いながら晃佑をひたすら探した。 そんな私の体にいきなり背後から腕が回されて。 一瞬びくっとしたけど。 「やっと見つけた。知花、おまえ、勝手にどっかいくなよっ」 聞き慣れた安堵の声と少し怒った声。 「ごめん。晃佑の友達の女の子に誘われて」 私は晃佑を振り返りながら答える。 「…なにもなかったか?」 晃佑が心配したように聞いてくれて、私は笑顔で頷く。 友達になれそうな子だったって報告をして、その子たちのところに一緒にいこうって誘おうとした。 「コウ」 なんていう声が聞こえたと思ったら、私の目の前、ストレートの長い黒髪の女の子が、晃佑の腕に飛びついていた。 誰?と聞くまでもなく、即わかった。 ミクだ。 晃佑の視線はミクを見て、私を見て。 「久しぶりにきたよね、コウちゃん。飲んでる?一緒に飲もうよ」 ミクは晃佑にそう笑顔で声をかけてから、私を見て笑顔を見せる。 …目、大きくてなかなかかわいいし。 私より少し細身で小柄かもしれない。 その晃佑の腕にそれが普通のように抱きついている。 私は何を言えばいいのかわからなかった。 何を考えていいのかもわからなかった。 「……ちょっと待て。離せ。誤解されるっ」 「コウちゃんの今の彼女なの?…美人だね。コウちゃん、理想高すぎない?彼女も連れて飲もうよ。というか、つきあって。お願い。コウちゃんと飲みたいっ」 「無理っ。もう帰るっ。 知花、いこ」 晃佑はミクの手から逃れると私の手を掴んで。 私の手を引っ張っていこうとして。 「やだっ。コウちゃん、つきあい悪すぎっ」 ってミクがついてくる。 晃佑は立ち止まってミクを振り返り、ミクの額に痛そうなデコピンを当てた。 ミクは額に両手を当てて、涙目になって晃佑を見る。 「しつこい。ピアスも返した。連れにはなれないって言っただろ?」 「友達でいいって言ってる」 「なれない。俺を見かけても声をかけないでくれ。おまえにフラれたのは俺だ」 「……じゃあ彼女に戻る。二人彼女って贅沢でよくない?」 「戻らない。俺の女は一人だけだ」 晃佑は頑なにミクを拒んでみせてくれて。 私は握られた手をぎゅっと握り返す。
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