Special

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ミクが私と同じくらいに晃佑を好きだと見せていたら、私は同じことが言えたかわからない。 ここにいたいと強く思う気持ちはあるし、晃佑にふれられるとすごくうれしいし、その笑顔を見ると幸せに思えるけど。 もしも晃佑の気持ちが揺れたら…。 他の誰かを好きになったら…。 私は私のこの我が儘とも思える気持ちを捨てなければいけないのだろう。 なんて、そんなあるかどうかもわからない未来を、ネガティブな方向に考えてしまう。 いなくなったら…、気持ちが離れてしまったら…、私、絶対に泣く。 それくらい晃佑にハマっている。 余裕は…あるけど、ない。 加藤くんのバイト先のプールバーで、晃佑にビリヤードを教えてもらって。 キューを構える晃佑を見ながら、そんなことを思う。 晃佑が強くキューを振ると、白い手玉は台の上を勢いよく転がり、ダイヤ型に組まれた玉に当たって大きな弾けた音を響かせ、散り散りに転がっていく。 2つほどポケットへと落ちて、台の下を滑る音。 「私の順番回ってこないよね?」 「……マスワリ決めても知花つまんないよな。俺は1回、知花は5回突いて交代でどう?」 つまり、私がやっても玉は5回に1回くらいしかポケットに落ちないと…。 その通りだけど悔しい。 「晃佑に負けないくらい上手くなってやるっ」 私は晃佑に言ってやると、習ったとおりにキューを構える。 と、酔ってもいないのに、晃佑は私の後ろからいきなり抱きついてきた。 「キュー当たるよ?」 「…ビリヤードやるときはスカート禁止。パンツ見えるっ。というか、見ようとしてる男がそこら中にっ」 なんて言われて、辺りを見ると何人かの人と視線がぶつかって。 慌てたように逸らされる。 「…でも晃佑、こういう服好きでしょ?」 「好きだけど…。おまえが他の男に見られるのはいや。…ビリヤードやめて帰ろうか?」 「嫉妬?」 「嫉妬。帰ろう?」 「帰ってなにするの?」 「…イチャイチャ」 晃佑はうれしそうに笑って、私の頭にキスをしてきて。 私はうれし恥ずかしで笑った。 いつかを考えないでいられるくらい、いつも笑っていられたらいいのに。 そう心から思う。
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