Destiny(Kosuke↓all)

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「…おはよう」 女は俺に少しだけ微睡んだ表情で挨拶してきた。 「……誰?」 俺の聞き方はまずかったのか。 女は名乗ることもなく。 昨日ことを話してくれるでもなく。 「…服を着たいので、これはずしてください」 その縛られた手首を俺に向かって突き出す。 …それは、もしかしなくても俺が縛ったのだろう。 使われていたのは俺が雑誌をまとめるために買ってきておいた荷造りロープ。 絶対にほどけないというくらいに縛られていて、俺は無言でハサミを取り出して、それを切ってやる。 俺……、もしかして…無理矢理連れ込んで強姦した…? 記憶のないものに何をどう言うべきか迷う。 好み…なのだけど。 もう一回…なんていう雰囲気ではなさそうだ。 女は無言で散らかっていた服を集めて着ていく。 した……よな? 強姦?そっち?マジで?犯罪? 女の素っ気ない態度に、焦りのほうが勝ってきた。 女は服を着ると、そのまま何も言わずに家を出ようと歩き出す。 その後ろ姿を見て、不意に思い出した。 杉浦。 高校の同級生。 長い黒い髪。 その髪が教室の窓から吹き込む風に揺れる後ろ姿。 メガネをかけたその顔が俺を振り返る。 ……なんで杉浦? 確かに…メガネをかけたそれも美人だなと見ていたけど。 「……杉浦サン?」 俺は本当に杉浦なのか確認するように声をかけた。 高校の頃、名前を呼んだことさえもない。 話したこともない。 ないけど…。 「お邪魔しました」 女は俺を振り返り、頭を下げると、俺に答えることもなく出ていこうとして。 俺は慌ててその背中を追いかけて、細い肩を掴んで引き留めた。 答えはないけど確信ある。 知ってる。 杉浦だ。 だとしたら、余計に焦る。 「……ちょっ、待った。杉浦サンだよなっ?俺、なにしたっ?」 「…なにも」 焦った俺に杉浦は平然とクールに答えてくれる。 そんなわけがないっ! 「何もないわけないっ。俺、裸だし、杉浦サンも縛られて裸だったしっ。どう考えても…」 「………何もありませんでした」 杉浦はもう一度繰り返すように答えてくれる。 少しイラついた。
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