Destiny(Kosuke↓all)

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少しは迷った。 けど、このまま帰らせたら、俺と杉浦にはなんの接点もない。 このまま会わなくなるのは目に見えている。 俺は杉浦の後ろから腕をのばして、その扉を閉めた。 「逃げるなよっ。まだ聞きたいことあるんだって」 「私は何もしていませんっ」 杉浦は振り返ることなく、まるで俺が責めているかのように言ってくれる。 違うっ。たぶん、きっと、俺がしたっ。 ……たぶん。 自分がひどく情けない。 俺はドアノブに片手をかけたまま、杉浦を捕まえるように、片腕をその体に回して抱いて。 「誰も責めてもいないっ。…俺が責められるんじゃないのか?記憶ないし。なんかSMっぽいことしたみたいだし」 責めてくれたのなら謝る。 それが同意なら、謝れば断る文句になりかねなくて謝れない。 断るつもりはない。 記憶にはないけど、杉浦と遊びでそういうことをしたいとは思わない。 今、彼女いないし。 つきあってって言ってくれたなら、つきあう気はじゅうぶんにある。 何も言わずに逃げるのだけはやめてくれと思う。 「帰ります」 逃げる。 俺の腕を離れさせようとしやがる。 けど、ふれた反応、怯えているわけじゃない。 逃げようとされているのはわかるけど。 強姦じゃなかった…? 同意? どっちだ? …嫌われてる感じは…しないけど。 「…いや。…会話になってないし。杉浦サンの携帯番号教えて?メアドと。俺のも教えておくから」 俺はこの場はとりあえず逃して、後日でも連絡をとれるように聞いた。 ふと気がつくと、いつも遠目に見ていただけのその髪はすぐそこにあって。 惹かれるように、その髪に頬を当てる。 鼻先に香る柔らかい香り。 サラサラで柔らかい髪。 「…髪、いい匂い。綺麗な髪」 杉浦の頭に顔を擦りつけるように、その体に回した手で杉浦の服を小さく掴んで、俺はらしくないくらいにそこに甘えた。 気持ちよくて…。 少し癒されもして…。 鼓動が俺の中に響く。 「なんか言えよ」 言っても返事はない。 けど…。 「……なぁ?つきあおっか?」 俺はそう聞いていた。 離したくなかった。 甘えていた。 高校の頃…憧れたその女に。
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