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彼…、晃佑の家なんて二度と行かないと思っていた。
酔っ払い晃佑は酔っていないときと顔色も変わらない。
でも無駄にベタベタしてきて、やけに笑顔が多くなる。
そして深くは何も気にしない。
自分が思うとおりになればそれでいいだけの、他はどうでもいいという、完全なる自己中。
そしていつも以上に強引に口説く。
いつもも強引だけど。
私に拒否の隙を与えないくらい強引。
玄関の扉を閉めると、そのまま私の体は玄関の扉に押しつけられて、キスをされる。
鍵が背後でかちゃりと音をたててかけられた。
息ができないキス。
呼吸が止まる。
晃佑の腕にふれて、後ろに逃れようとしても扉だ。
舌を絡ませるキスに泣きたくなりながら薄く目を開けると、晃佑は私を睫毛の下から見ていて。
目が合うと頭を押さえつけてキス。
逃げられない。
ここにきてしまった私が悪いのはわかってる。
…でも…、どこかで私はこうされたかったのもある。
そんな自分が嫌になる。
だって晃佑に気持ちはない。
酔っていたら更にない。
ただの欲望だ。
けれど、同じ遊びなら、何を気にすることもない、記憶もなくしてしまう酔っ払い晃佑にされているほうがいいと思う。
忘れてしまえばいい。
「…こっち。チカ」
晃佑は唇を離すと私の手をひいてベッドに連れていく。
「靴っ」
私は慌てて靴を脱ごうとするけどおかまいなしに引っ張られて。
ベッドの上に私は座らされて、そこで靴を脱がされた。
服もばさばさ脱がされて、下着姿にされて。
晃佑も上を脱ぎ捨てて、ベッドに私を倒して私の体の上に乗ってくる。
「チカ、俺のこと好き?」
こんな強引すぎる人を好きだなんて言える人はめずらしいと思う。
でも。
「…好き」
言っているのは私だ。
どうせ朝には忘れてしまう。
初めての夜も…私は聞かれて言った。
「もっと言って」
「好き…」
よくできましたと褒めるかのように頭を撫でられる。
すごくうれしそうな顔をしてみせてくれて。
晃佑はきっと二重人格だ。
全部忘れてしまう。
…誰に言われてもうれしそうな顔を見せるんだろう。
私を私と思ってもいないだろう。
そこにいる女。
ただ、それだけ。
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