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「…服、返すからちょっと待ってて」
チカは迷った様子を見せたかと思うと、そんなことを言ってくれて。
それはないだろと思った俺がいる。
いや、よく考えれば、チカはトモたちと行動するのを嫌がっただけなんだけど。
その時の俺はすぐにそっちに考えてやれなかった。
「はぁっ?それはチカに買ってやったんだろうがっ」
「私の趣味じゃない。返すっ」
チカはトイレで着替えるつもりか、俺から離れていこうとして、俺は強くその細い腕を掴んで引き留めた。
「いらねぇよ。いきなりなんなんだ?さっきまでおとなしくついてきていたくせに」
プレゼントしたものを返品しようとしてくれるから、俺は少し本気でキレかけて、どこかチカを責めるように言って。
「あたしたちと仲良くしたくないってさ。コウ、その子、コウが酔ってる時にナンパした子でしょ?その子に誘われてたし、そのままいなくなったし。えっちしたから気にかけてる?」
トモはチカと喧嘩しそうになっている俺を止めるように言葉を挟んできた。
トモは俺がチカと最初に再会した日を知っているらしい。
俺は少しだけ冷静になってみる。
「…俺、誘われたの?」
チカが誘う?
……かなりあり得ない話だ。
「そう見えたけど?」
トモは俺に言葉を返してチカを見る。
俺もトモの視線につられるようにチカを見る。
チカは俯いていたその顔を上げて、俺を見上げてくる。
「……だから、全部私が晃佑を嵌めただけ。晃佑とやるためだけに。貢いでくるからこわくなった。もう…電話しないで」
俺の目をまっすぐに見て、そんなことを言ってくれる。
チカが俺を嵌める?
……ないな。
俺とやるためだけに?
だったら、俺がシラフで誘ったときに応えろと言いたい。
……ない。
あり得ない。
「嘘つき」
俺は即否定してやった。
まっすぐに目を見て嘘をつきやがる。
ムカつく。
俺の記憶はなくても、チカがそういう女じゃないことはわかっている。
嘘や誤魔化しやかわすことの多い女だけど。
俺を嵌めたりはしない。
そのチカがつく嘘は俺に責任をなすりつけるようなものでもない。
それでも嘘をつくからムカつく。
本音でかかってくればいいのに。
「次、嘘ついたらおまえは俺の女決定」
問答無用でそういうことにしてやる。
チカは俺の否定にその顔を俯かせて黙って。
俺はチカが俺に折れるのを待つ。
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