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記憶にないのだから否定しなくてもいいじゃないかと私は思う。
すべて私の妄想で、すべて私が一人でしたことにしてしまえばいい。
どれだけ言っても、私の好きの言葉は晃佑に届かない。
その時だけはうれしそうに…、本当に本当にうれしそうに笑ってくれる。
その時しかそう笑ってくれないのだろうって思ってる。
私はそんな一瞬の幻のようなものに心を奪われてしまった。
自分を馬鹿だと思う。
「もう俺が酔ってる時に家にくるなよ?」
晃佑が連れてきたんだって言いたい。
私はうんうん頷いておく。
私は一人でここにくるつもりなんかない。
晃佑は朝ごはんにトーストを焼いて出してくれて、私はトーストとコーヒーでお腹を満たす。
「酔ってないときはきて?」
「遠慮します」
「俺の希望を遠慮するな。というか、つきあおうって何回言えば頷いてくれんだよ。酔ってるときはするくせに、シラフのときには思いきり拒否してくれるし。酔ってる俺にもうおまえとセックスさせてやらない」
やっぱり二重人格なのだろう。
どっちも晃佑のはずなのに、別人のように言ってる。
好きにしてくれればいい。
晃佑が電話をかけてこなければ、私を誘わなければ会うことなんてない。
私より先に食べ終わった晃佑は顔を洗って身嗜みを軽く整えて。
私の髪にブラシをとおす。
晃佑は私の髪が好きらしい。
「黒もいいけど、色抜いても似合いそうだよな。体もスタイルいいし、もっと体のライン見せるような服着ても似合いそう。素材はいいのに地味だよな。もったいない」
私は晃佑のまわりの女の子と比べられているのだろうか。
晃佑のまわりで私が異色なだけのように思う。
高校の頃から派手めなギャルと仲良くしていたし。
今もそういう女の子しか晃佑のまわりで見ていない。
「パン食べたらデートな?バイト、夜からだろ?」
「……パン食べたら帰ります。お風呂も入りたいし」
「ここで入れば?連れから女物の下着もらったし、おまえにやるわ」
…下着をもらうなんて意味わかんない。
「遠慮します」
「すっげスケスケセクシーで小さいの。着て?」
「本気の本気で遠慮します」
私は晃佑を軽く睨んで、晃佑は笑う。
…晃佑の笑顔は…好き。
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