Dog house

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眠りは浅く、たまに深く。 3時間くらい寝て起きて、また寝てと繰り返す。 いつからこうなのかは記憶がない。 一人暮らしをした頃にはこうだった。 精神的に不安定なのだろう。 自分の精神的なものを認めてしまいたくなくて、病院にはかかっていない。 薬がなくても酒を飲めばよく眠れる。 仕事の都合もあるし、休前日しか飲めないけど。 暗い部屋の中でまた一人で目が覚めて。 出ることのない電話に寄りかかるようにかける。 コールを聞くだけ。 だったのに。 『…誰?』 なんていうチカの寝ぼけたような声が聞こえて。 半分ぼんやりとしていた頭は覚める。 覚めたと同時に、その声に甘えた気持ちが抑えきれなくなって。 「チカの馬鹿。ボケ。アホ。ナス。カス」 と、拗ねてひたすら子供の喧嘩かよというようなことを言ってやった。 次のチカの声は聞こえてこなくて。 眠りそうな呼吸がかすかに耳に聞こえる。 チカにとっては寝ぼけて思わず出てしまった電話だろう。 「起きろっ!」 『眠い…』 「家きて」 思いきり我が儘言って甘えてやった。 そのあとの返事は聞こえない。 寝てしまったのだろうか。 「……チカ…」 甘えた気持ちでその名前を呼んで。 目を閉じて、そこで眠るチカの姿を頭に描く。 2回しか会っていないようなものだけど、じっと見ていたから、その寝顔はよく覚えている。 …かわいい。 「……起きろよ。なぁ」 俺は目の裏のチカの寝顔に声をかけて。 起こすつもりもない。 眠って聞き逃してくれていればいいとも思う。 「…俺に興味あるくせに、そんな態度とるから気になるんだろうが。 ……チカのこと教えて。最近、何してる?バイト?学校? ……他に興味あるやつできた? ………会いたい。今すぐ。家どこ?」 俺は独り言のように、ひたすら声をかけて甘えた。 会いたい。 ふれたい。 その髪に顔を埋めて甘えていたい。 疲れている。 癒されたい。 何に疲れている? 仕事?恋愛? …なんだろう? ミクのことを夢にみるときが一番、鬱かもしれない。 信じた気持ちが……簡単に消えた。 あんなに好きだと言っていたのに。 あまりにも呆気なくて、自分が情けなくて。 穴はまだあいたままなのか。 誰かにふれていたい。 おまえにふれたい。 大丈夫? いつか聞いた、チカの声が耳の奥に聞こえる。
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