Dog house

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町も静まった夜の時間。 部屋の冷蔵庫の音くらいしか音もない。 俺はただ待っていた。 『雨が降ったらいく』 チカはしばらくすると、そんな言葉を返してくれた。 水族館の話? ………違う。 今会いたい。 俺が独り言のようにひたすら語りかけた言葉への返事。 俺はそれがわかって、部屋のカーテンを開けて、まだ暗い空を見上げる。 降りそうな空。 「……外、曇ってるっぽい。雨が降りだす前にきて」 会いたくて。 きてくれると言った言葉に期待して。 『嘘。学校あるからまた寝る』 チカは思いっきり俺の期待を裏切る言葉をくれた。 本気、はずされた。 俺は騙されやすいタイプなのだろう。 かなり悔しい。 本当に来てくれそうな空気だったのに。 「なん、それっ。…こい」 『お願いも命令もされてあげない』 意地悪だ。 俺は頬を膨らませて、チカの前だと本当にガキだ。 「おまえのお願いもきいてやらねっ」 『お願いなんて…電話しないでとしかしたことない』 そんな願いは却下。 けど…。 「……何して欲しい?」 チカが求めること。 聞き出そうと思って聞いたけど、チカは答えることなく流した。 教えてくれれば、俺ができることならするのに。 してあげるから…、そばにいてと望む甘えた俺の感情。 空が明るくなるまで長電話。 中身があるのかないのか。 ただ、長電話。 チカが学校だと言って、その準備をしながら話しているときには、雨音が聞こえるくらい雨が降っていた。 俺の仕事は休み決定。 「で、きてくれるの?学校終わったら」 『バイト』 「バイト終わったら?」 『……家に帰ってご飯食べて寝る』 「飯食べにいこ。待ち合わせ場所は前と同じところで。時間は23時くらいで。…10分くらいは待って」 『明日も学校とバイト』 「俺も仕事ある。雨が降っていなければ。…少しは俺にかまえよっ」 『……どうして私なの?』 どうしてだろう? 女の連れもそれなりにいる。 中にはチカほどではなくても、好みに思える女もいる。 俺はチカを狙おうとした時を思い出す。 「おまえの髪に顔を埋めてるのが好きだから」 なんていう俺の答えは、チカには不満だったようだ。 それでもそこが俺の一番好きな場所かもしれない。 癒され、落ち着く場所。 居場所? 顔やスタイルが好みより前に、その場所を持っている女だからだと思う。
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