Dog house

8/12

584人が本棚に入れています
本棚に追加
/606ページ
家に帰りつくまでに電話がいくつかかかってくる。 すべて遊びの誘い。 夏だしボーナス入ったしといったところで。 チカを連れて遊びにいければいいけど、チカが人見知りをしてくれるから無理だ。 またそれで怒らせて電話を無視されたくないと思う。 連れが多すぎるというくらい多い。 毎日、誰かからは電話がかかってきている。 謝ってまた誘ってと答えて、家に帰りつくと、チカと一緒に外に食べに出て。 まぁ、その間にも電話がかかってきたりするけど。 夏はみんな暇でみんな忙しい。 携帯の充電が切れた。 学生でバイトと仕送り生活のチカに飯を奢るのはいつものことになってる。 そこまで食べないし、酒も飲まないし、安上がりなものを好んで食べるし。 俺が酒をやめていることもあって、あまり負担にもならない。 で、飯のあとは少し外で遊んで、俺の連れに捕まる前に、普通にまた俺の家にチカと戻る。 やっぱりつきあっているでいいと思う。 家に入ると蒸す。 吐き気がしそうな茹だる蒸し暑さ。 「家、やっぱ暑いな…。電気代かかりそ」 俺は呟きながら、設定温度を思いきり下げて、強風で冷房のスイッチを入れる。 極楽だ。 夏の電気代は鬼だと思う。 夏だけでもいいから電気料金を下げてくれればいいと思う。 ひたすら涼んでいると、チカは俺のそばに寄ってきて、何かと思うと右耳のピアスにふれた。 俺の耳を見ているその顔はいつもより近くに感じる。 抱いて寝てるけど。 後ろから抱いているから、顔がすぐ近くということもない。 少しだけその睫毛に見とれる。 何ヶ月見ていても、見飽きない美人だ。 あまりメイクも濃くないのに、毛穴も見えない綺麗な肌。 「これしかつけないの?」 「……こっちついてる」 俺は左耳にかかる髪をかきあげて、そこにつけている3つのピアスを見せる。 右にももう一つ軟骨にあけているけど、ピアスを通していない。 どうせ髪がかかって見えないし。 ピアスやアクセサリー類に少し飽きている。 前は色々やっていたけど。 今はほとんどつけないし、つけかえない。 けど…、思えばこの赤いピアスをいつはずしただろうというくらいつけている。 「右耳は…確かにこれしかつけていないかも」 「こだわり?」 「…前の彼女の置き土産」 俺は正直に答えてやる。 ミクが俺の家に忘れっぱなしで、その後二度とくることがなかっただけだ。 忘れたことも忘れているだろう。
/606ページ

最初のコメントを投稿しよう!

584人が本棚に入れています
本棚に追加