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俺が今、隆太にチカを奪われそうに思って、その手を引き離したように。
俺を誰かに奪われたくないのなら、そう思ってくれるのなら。
俺の手を掴んで離さないでいてほしい。
求めてばかり。
俺が一人で空回る。
「違うだろっ。おまえくらいしか俺の女になった女を狙う男はいないっ。ミクのこともおまえが狙って…」
おまえが落とした。
ミクはおまえに惚れた。
たとえ最初はあの女の言うように、ただ俺のことを考えてくれて近づいたのかもしれないけど。
……これは俺の隆太への嫉妬でもあるだろう。
簡単に奪われる。
どんなにラブラブをやっていても、次の日にはあっさり友達になろうと女は俺に言いやがる。
「言いがかり。別れたのを俺のせいにするなよ。モテるくせにフラれまくりだよな、おまえ。チカちゃんにもフラれないようにな」
隆太はそんな言葉を残して、チカに笑顔で手を振って、さっさと引き上げてはくれる。
チカへの嫉妬。
隆太への嫉妬。
俺はひどく醜いかもしれない。
「……もう遊びに行く気なくなった。帰ろうか?チカ」
俺は隆太の言ったことをチカに掘り返される前に、なんとか話題をかえてチカに声をかけた。
「さっきの女の子と遊ぶ約束したの?」
「カラオケ誘われた。チカが行きたいなら行ってもいい」
「3人でいくの?」
「もっと人呼ぶ?」
全員分、奢らせてやってもいいだろと八つ当たりのように思う。
チカは3人ならといった感じでカラオケにいくと決めてくれて。
カラオケの部屋に入ると、女は当初からそれが目的だったかのように、チカをからかうかのように、俺にわざとベタベタしてくる。
チカは特に何も言わず、無視をしてくれて。
そんなもんだよなと俺は一人で思う。
冷めてもいないのに、冷めている。
求めればまた空回る。
俺は何も気にしないふりをして、女の奢りの酒を楽しく飲ませてもらう。
チカはトイレにいって。
女はチカを見送ると、つまらなさそうに俺から離れる。
「つまんない。嫉妬してはいるだろうけど、なんか冷めてるよね。酔ったふりしてキスしてみる?」
「…無駄だろ」
「……コウも冷めてる」
燃焼できるくらいのものをもらっていない。
ただ……、セックスのあと、ぎゅっと強く抱きしめてくれるその腕だけ…求められていると感じられる。
このつきあいは…チカにとってなんなのだろう?
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