Difference

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拗ねてみて1週間。 俺の携帯は鳴らない。 このまま自然消滅するんじゃないかと思うほど、チカが俺の携帯を鳴らす気配はまったくない。 こんなつきあいをしたかったわけじゃないと、チカと再会した頃の気持ちに戻って思う。 思ってから……、俺を振り向いて俺を求めたチカの言葉を俺は一度も聞いていないと思った。 それでも。 と、俺はネガティブになる考えを振り払うように、別のことを思う。 家に来てくれていた。 添い寝してくれていた。 …そんなの連れでもできる。 それでも。 と、また俺はこのつきあいを意味のあるものにしようと、別のことを思う。 セックスのあとは…俺を強く抱きしめてくれた。 信じろと自分に言い聞かせるように思って。 ………我慢させて無理させて、何がしたいんだと自分を責めるように思う。 おまえが惚れて。 本当に求めずにはいられない男に惚れて。 その男とつきあえば……いいだろ? チカが俺にくれた言葉をそのままのように思って、俺は目に浮いた涙を腕で拭う。 仕事の休憩中。 作業着姿で髪をまとめるように頭にタオルを巻いて、携帯片手に思わず泣いたかっこ悪い俺。 「コウ、飯いくぞー」 先輩社員に誘われて、腕で目元を拭いまくって。 「うぃっす」 俺は何もなかったかのように返事をして立ち上がる。 仕事仲間と数人連れだって、現場近くの食堂へ。 嫁が子供がと話す元ヤンパパもいれば、独身先輩社員もいて。 いろんな境遇のやつがいるけど、仲良くやっている。 嫁が子供がと愚痴られても、幸せそうだなと思う。 「今これ狙ってんの。かわいくね?」 先輩社員は俺に写メを見せて、どこか自慢気に言ってくれる。 「俺の女のほうが美人です」 「写メは?」 俺は隠し撮りしたチカの写メを見せて自慢してやった。 撮らせてくれないし。 「おぉ。美人。美男美女カップルかよ」 「…顔にでかい傷でもつけてしまいたいですね」 「どっちの?」 「俺の」 モテるから。 俺はモテるから、大丈夫。 チカもモテるから、大丈夫。 離れても、別々の道を歩いても、また別の人に出会える。 別の人に出会ったほうが…お互いのためになる。 そう思わないか? その髪に最後に顔を埋めて甘えさせて。
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