Dual

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家に帰り着いて携帯を手にしても、その先にすぐには進めなかった。 日付がかわって。 チカはもう家に帰りついて飯を食べて風呂でも入っただろうと思う。 バイト帰りに寄ってもらうつもりだったのに。 家よりもバイト先のほうが近いようで、呼べば、そう時間もかからずにきてくれていたから。 どんどん時間が過ぎて、チカが眠ってしまう前に…という時間になってきた。 俺はチカが鳴らすはずのない携帯を手に、まだ少し、拗ねた気持ちでその連絡を待ってしまう。 チカが俺の携帯を鳴らしてくれたのなら…。 俺を呼んでくれたなら…。 何週間待っても、きっと変わらないのだと、もうわかっている。 このまま俺が連絡をとらなければ、自然消滅するだけのものだ。 俺はチカに電話をかけた。 耳に聞こえた、電話に出たチカの声は微妙に不機嫌だった。 喧嘩をしてしまおうか。 なんて思いながらも、今何してた?だの聞いたり、普通の電話。 俺も少し飲んでいたことを話して、きっかけもない普通の電話。 けど。 「…なんで電話くれないの?俺のこと放置?」 結局、俺は言っていた。 『どれだけ飲んだの?』 俺の聞いたことをかわすかのように、チカはいつものように話をすりかえる。 おまえの考えは俺には見えない。 見せてくれない。 見せてくれたと思ったら、別れたいなら別れてあげると、いつでも離れてもいいという言葉。 そんなもの…うれしくない。 俺は息を一つついて。 「ちょっとだけ。…チカの髪に顔を埋めたい。思いきり喘がせたい」 俺は話を更にそらしていく。 最後のつもりで電話しているのに、セックスなんてしないけど。 『痛いのいや』 「気持ちよくなるように調教。……行くから家教えて」 『…私が行くから来なくていいよ』 また教えてもらえない。 これが隠しているということなら、他の男と住んでいるのかと考えられるものだ。 疑おうと思えばいくらでも疑える。 時計の針は午前2時。 休前日だし、繁華街には人がまだ出ているだろう。 「こんな時間に一人で出歩いたらナンパされるだろ」 『一回もされたことないから大丈夫』 嘘だ。 男も女も誰に見せても美人と言われるのに。 そこまで俺に家を教えたくないのか。
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