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家を俺に教えようとしないのはいつものことだ。
そこにこだわりすぎるのもなんだかで。
「じゃあ、電話したまま。スカートはダメ。トップスも露出少なく」
俺はとりあえずナンパされて連れ去られることがないように、いつもの服はやめろと言ってやる。
『……セクシーなの着ないとやる気なくなっちゃうでしょ?』
間があいたと思ったら、そんなふうにごまかしてきた。
そういう服を着ているらしい。
おまえは途中で誰かにナンパされたいのかと言いたくなる。
「すぐ脱がすから関係ない。……やっぱりいく。もう家出た?」
『うん。だから来なくていいよ。今向かってる。30分もあれば着くと思うから』
来なくていい…は、来るなと言いたいのか。
遠慮なのか、拒否なのか。
どんなに言っても、俺が呼び寄せる形になる。
しかも話の経緯じゃ、どう考えても俺がセックスしたいがために、夜中にいきなり電話かけて、呼び寄せているようにしか見えないだろう。
誰もそんなこと望んでないっつぅのっ。
「…チカの馬鹿。ボケ。ナス。カス。……都合のいい女になってんじゃねぇよ」
俺は思わず言っていた。
ちょっとだけキレた。
『…酔ってない?』
「ちょっとしか飲んでないって言っただろ。なに?酔って朝には記憶なくなる俺としたいの?」
『そういうわけじゃないけど…。
…もっと酔って』
もっと酔えって…、どう考えてもそういうわけだろっ。
俺が記憶なくすくらい酔ってると思ったから、会ってもいいと思った?
そうとしか受け取れないだろうがっ。
何かが悔しくなった。
チカはもう俺が本気で記憶をなくすことくらいわかっているはずだ。
そこで何を言われても、俺が何をしてもわからない。
俺がそれを嫌がっているのはわからないのかっ?
「記憶なくすくらい飲むのはやめた。酔ってる俺のほうがいいんだ?」
更に言ってやると、チカは黙り込んだ。
俺は二重人格で、チカは酔ってる俺に惚れてくれているのか?
それとも酔ってる俺を好きなように弄ぶのがいいのか?
どうあっても、まったくもってうれしくない。
もう記憶なくすくらい飲むなと言われたいくらいだと言うのに。
…こういうのは相性というのだろうか?
わかりあえない。
けど…。
わかりあうための言葉も、きっと互いに必要で。
俺もチカもそれが足りない。
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