Still

7/13

582人が本棚に入れています
本棚に追加
/606ページ
でも、だけど…。 どの本音なら私は許される? 何を言えばいい? …高校の頃から…見てた。 見てるだけだったけど。 声をかけたことも、かけられたこともないけど。 ううん。1回だけ、声をかけたことはある。 高校の頃、つきあっていた彼女が晃佑にはいて、その彼女と喧嘩をしているのを偶然見てしまって。 ただの口喧嘩ならいいのに、私の目の前で晃佑は階段を突き落とされた。 彼女は走って逃げて、晃佑は階段の下から彼女を茫然と見て、頭を打ったのか頭を押さえて痛そうにしていて。 かなり迷ったけど、声をかけた。 大丈夫? たったそれだけ。 晃佑は私を見て、何も言わずに立ち上がっていってしまった。 あとはただ見ていただけ。 会話もしたことない。 でも友達と話して笑うその顔が好きだった。 再会して、酔っ払い晃佑は私に笑顔をくれた。 まったく私のことなんて覚えていなかったけど。 高校の頃のこともあって、近づいてはいけない人のようにも思って。 でも私だけに向けてくれる笑顔が…うれしくて。 惹かれてしまう気持ち、止められなかった。 晃佑にとっては、たった2度しか会ったこともない女だろう。 その2度とも、なぜか朝には縛られて隣に転がってる変な女。 でも…私にとっては、偶然の再会。 近くにいきたいけど、近くにいけない。 うれしいけど、うれしいなんて言えない。 好きだけど…彼女なんてとてもなれない。 私と晃佑の世界は違う。 価値観というものが、きっと違いすぎる。 私は…晃佑の女友達とは仲良くなれそうにない。 私は黙ってしまった。 仲良くなれそうにないから嫌だなんて、彼女でもないくせに我が儘すぎて言えるはずもない。 その前に私は晃佑の友達なんかじゃない。 「お腹すいた。いこうよ、コウ。もう放っておきなって。嫌がってるんだし」 女の子たちは晃佑に声をかける。 晃佑は不服そうな顔で女の子たちと私を見て。 「トモ、急かすなよ」 晃佑は女の子たちの中の一人に言った。 トモ。 私の名前を聞いた酔っ払い晃佑が私を呼んだ名前だ。 「だってー。もういこうよっ。ランチタイム終わっちゃう」 彼女は晃佑の腕に抱きついて引っ張る。 私は……彼女と勘違いされて、最初の夜を過ごしたのかもしれない。
/606ページ

最初のコメントを投稿しよう!

582人が本棚に入れています
本棚に追加