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こわくなった。
誰かといるのが。
恋愛一つ終わったくらいで、なんでいきなりとも思うけど。
今までのいろんな積み重ねだろうと思う。
あの夢もその引金なのだろう。
軽く人間不信ってやつになった。
本気、メンタル弱くて自分が嫌になる。
今まで別に普通だったのに、仲間の中にいても、どこか疎外感のようなものを感じて。
ふれられると何かがこわくて、俺は笑ってごまかしながら、やんわりとその手から逃れる。
話すのも微妙にぎこちなくなって。
そこにいられなくなって。
一人、隆太のバイト先にいった。
いつもの台を借りて、以前の俺になれるように、今の何かおかしなこの状態から逃れられるように、無心でキューを振る。
俺の目に見えるのは、緑のラシャと色とりどりの玉と、台のポケットと、キューの先だけ。
ひたすらやってた。
気がつくと店内は客もひいて。
隆太が煙草をふかしながら、カウンターの中でグラスを磨いているだけ。
「……今、何時?」
隆太に声をかけると、隆太は店内の時計を指差して。
俺は4時間以上、ひたすらビリヤードをしていたらしい。
よくやるよなと自分でも思う。
しかも、もう夜が明ける。
秋になって陽が上るのも遅くなってきたけど。
……仕事。
俺は頭を抱えて溜め息をつくと、キューを棚に戻す。
「ソファー貸して。仕事の時間まで仮眠していくから」
眠れない…けど、目を閉じて横にならないと。
日中に頭が回らなくなる。
「どーぞ。そういやチカちゃん、元気?」
「………別れた」
「って、相変わらず終わるの早いな。またフラれたのか?」
言ったのは俺だけど。
フラれたのはどう考えても俺だろう。
チカは俺と続けていきたいという意思を見せてはくれなかった。
俺は隆太に答えてやらず、店内の螺旋階段を上って2階へ。
今は物置と化した、元はVIPルームとも思えるフロアがそこにある。
小さなバーカウンターとビリヤード台、応接ソファーセット。
俺はソファーに体を投げ出すように転がる。
溜め息が口からこぼれる。
何も考えずに生きられれば楽なのに。
俺の頭は考えることをやめない。
クスリに走りたくなるのは、こういうときなのかもしれない。
顔にかかる髪をかきあげて、その天井を見上げて。
しばらくその天井を見上げ続けてから、目を閉じた。
震える手で拳を握って。
顔を隠すようにその手を顔に当てる。
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