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チカのことを思い出せばまだ泣ける。
穴はあかずに、まだ胸が震える。
まだ俺は諦めきれそうにないらしい。
下手に俺から言って、チカの言葉を何ももらわずに終わったのが悪かったのかもしれない。
最後にふれたかったのに、会うこともなく終わったのが悪かったのかもしれない。
原因を考えてみても、まだ恋しいし、会いたいと思う。
胸は震える。
これが甘えているだけだとしても。
今すぐに切り替えて、次の女といつものようにいけない。
眠れずに目だけを閉じていた。
人の気配がする。
隆太がきたのだろう。
机の上に何かをおいた音、別のソファーに座った音。
「気のせいか、いつもより落ちてないか?」
ほっとけと返すのも億劫で、何も言わずに俺は眠ったふり。
「…フラレ虫。肝心なこと吐き出さないよな、おまえ。聞いてやってるんだから吐けばいいのに。どんな愚痴だって吐けば楽になる」
嫌な男だと思う。
長年の腐れ縁だ。
俺は隆太のことをまわりよりは知ってるかもしれないし、隆太も俺のことをまわりよりはわかっているかもしれない。
「おまえのせいにしてやる」
俺はそう答えてやった。
「たまには、はい、わかりましたじゃなくて、しつこく追ってやれば?そのうち相手もおまえに本気になるかもしれないだろ?」
「……追ったよ、つきあう前の3ヶ月。つきあってフラれてばかりなのは俺に人間として魅力がないだけだろ」
「おまえに本当に人間として魅力がなければ、おまえのまわりに人は寄ってこない。友達になりたいとは別れの言葉で誰も言わない。自己否定やめろ。モテるだろ?もっと自信過剰くらいになれ」
励ましやがる。
「顔だけだろ」
「不細工じゃなくてよかったな。……幼稚園の頃、おまえ、女の子よりかわいくて…。一目惚れだったのに。俺の初恋返せ」
いきなり男に初恋だったと言われてもうれしくはない。
そして微妙に女顔は気にしているところもあるから言わないでもらいたい。
俺は何も答えてやらず。
隆太が何も言わなくなると、店内に流す音楽だけが耳に届いた。
「……おまえの連れ全員に、おまえの自己否定聞かせてやりたい。殴られまくるぞ」
隆太は俺の頭に軽く手を当てて、1階へとおりていったようだ。
目を開けると、机の上にはアイスコーヒー。
俺は恋愛は最悪でも、いい連れに恵まれている。
人間不信なんて言ったら、毎日いろんなやつから電話かかってきそうだ。
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