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別れて1ヶ月過ぎても、俺は相変わらず次の女といけずにいた。
ヘルメットかぶって安全ベルトつけての高所での作業中。
ぼんやりしていたら、俺の体に巻かれていたベルトがいきなり引っ張られて、何かと思うと俺の体は落下しそうになっていた。
目の前には遠い地面。
思わず遅れて悲鳴をあげる俺。
先輩社員に引き上げてもらって、ぶるぶる震えて先輩社員に抱きつく。
本気、死ぬかと思ったっ。
「……おまえに抱きつかれてもうれしくねぇな。俺より背高いし」
言われて、俺が背を縮めるように少し屈むと、先輩社員は笑って俺の頭をメット越しに撫でてくれて、俺は笑う。
ぼやぼやしてはいるけど、少しの人間不信もまわりのおかげでマシにはなって。
それでもたまに一人になりたいときもあって。
いつもの店には行かずに、俺の連れはなかなかこないであろう店を日替わりに回ってみる。
立呑屋。
まだ二十歳だが、オッサンに混じってみるのも、なかなか楽しい。
オッサン方は酔っ払いだが、かなりフレンドリーだ。
飲み代を奢ってもらえることもよくある。
「またきたのか、兄ちゃん」
と、常連となりつつあるのは、微妙にヤバいかもしれない。
「こんばんはー。なんか適当なツマミと一杯ちょうだい」
「いい若者がこんな時化た店で飲まなくてもいいだろうに」
なんて言いながらも店主は俺の前にグラスの日本酒とツマミを出してくれる。
店主と話しながら飲んでいると、常連オッサンとも話すようになって。
「え?なに?麻薬Gメン?警察?なんかかっこよくないか?オッサン」
「防衛省じゃなくて厚生省だ。警察ではないんだよな、これが。でもやってることは警察みたいなものかもな。おまえはやってなさそうだな」
「やってたらオッサンに捕まるだろ?」
「捕まえない、捕まえない。おまえから売人情報もらわないと」
「それを言うってことは、俺に情報提供しろって言ってるんだよな?俺を信用してる?」
「おまえはいろんなところに顔が広そうだからな。俺がGメンだと麻薬やってる奴らに言いふらすようには見えないかな」
「なんで?言いふらしたらどうする?オッサンの仕事の邪魔になるんじゃないのか?」
オッサンはじっと俺の目を見てきて。
俺は疑われてやろうとその目から目を逸らす。
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