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「今は検挙が目的じゃない。本当は言いふらしてくれても構わない。俺が担当しているここで売買が行われている様子がなければ仕事も減って楽だ」
「やる気ないな。仕事しろよ、オッサン」
「おまえの仲間にやっている奴がいれば、それを捕まえてやろう。ほら、今すぐ連絡とって売ってくれと呼び出せ」
俺の頭の中には、そういうのをやっている連中の顔が浮かんだ。
トモの顔も浮かんだ。
そいつらを売れと言われても…と考える。
俺にとっては別に嫌な連中でもない。
クスリをやっていなければ普通だ。
まぁ、クスリが犯罪であって、国家権力に捕まってもおかしくないことなのだとはよくわかっている。
それでも知り合いが刑務所に入れられるのは微妙だ。
捕まる前にやめてくれればいい…なんて俺は考える。
「俺、やらないし。知り合いにやっている奴はいるけど…、売るほど憎む相手でもないし。金をくれても教えられない」
俺はどう答えるか迷いながらも、そうオッサンに言ってみた。
オッサンはそれでいいかのように少し笑ってみせて、財布を開けて精算でもするのかと思えば、俺の前に名刺をおいた。
松田さんというらしい。
「話してくれてありがとう。何かあったら連絡してくれ。あと、さっき聞いていたな。俺はおまえみたいな奴は信用できる」
「なんで?」
「隠さずに話した上で断ったから。自分がやっていなければ、知っていても巻き込まれたくないと何も話さない奴がほとんどだ。あとは簡単にやっている奴を教えたりな」
巻き込まれ…たくはないけど。
俺になついてくれているトモのこととか考えると、松田さんみたいな知り合いはいてほしいようにも思う。
捕まえてもらいたいとは思わないけど、何かあったら相談にのってもらいたい。
疑える素振りを見せたのに、信じてもらえるのはうれしいことだ。
「あ。だからって一切、垂れ込むなとは言わないからな?何かあったら連絡はしてくれよ?できれば細かいものじゃなく、一斉検挙的なもので」
「…オッサン、仕事やる気あるじゃないか」
「一気に終わらせたいだけだ。麻薬取締厳しくなってると言いふらして取引ゼロにしてくれると、なおうれしい。どうせ下っ端売人一人捕まえてもイタチゴッコってやつだからな。また新しい売人雇って売られる現状」
やっぱりやる気ないらしい。
でも言いふらしはしてやろうと思う。
俺のまわりからクスリ撲滅させたいから。
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