584人が本棚に入れています
本棚に追加
/606ページ
「かわいいって。ブスなんて言ったことないだろ。眉毛ないのはこわいけどな」
俺は軽く笑って、麿かと思えるトモの短くて薄い眉毛をくすぐるように指先で撫でる。
うん、眉毛くらいは書いてもらいたいかもしれない。
トモは俺の手を振り払って、額に手を当てて、その眉を隠す。
「だって…、コウがつきあった女、みんな美人ばっかりだったしっ。私がどんなに言っても、誘っても、振り向いてもくれないっ」
「だからそれはおまえがクスリをやめないからだろ。容姿で俺はつきあう女を選んでない。全部、タイミングだ」
そう。何もかもタイミングだと思う。
あの時、彼女がいなかったから。
あの時、誘われたから。
あの時、言われたから。
あの時、彼女がいて、そういう雰囲気でもなければ、つきあうこともなかった。
俺のつきあい始めは、いつもそういうものだ。
だから……、恋愛ごっこ…は、俺から始めているのかもしれないけど。
つきあって、今まで以上に知って、惚れていくのは…よくないことなのか?
「チカは違うじゃないっ。コウがひっかけて、コウが追いかけてたっ」
「…確かにあれは初めてのパターンだったかもな」
女を狙っても1週間くらいで落としていたし。
3ヶ月も追いかけたのは初めてだった。
引っ掛けたのは…俺であって俺じゃない。
無意識の酔っ払った俺だ。
記憶もない。
「やっぱり美人がいいんじゃないっ」
それを言われると、どっちとも言えないかもしれない。
確かに美人は好きだ。
でも、きっかけがなければ、俺はチカと話すことはなかった。
きっかけがあっても、高校の頃は話せなかった。
それに…、結局、俺がチカに求めていたものは…甘えられる場所。
容姿なんて関係ない。
俺はどこか興奮しているトモを落ち着けさせるように、両手でその頬を包む。
トモの目は俺をまっすぐに見上げてくる。
「おまえはかわいい。本当におまえとつきあわない理由はクスリだけ」
「……コウの好みは?好きだからつきあってくれるとか、そういうのないの?私がどんなのでも、クスリやってても、絶対やめさせるからつきあうって…そういうのないの?」
トモはどこか泣きそうになって言ってくれる。
そういう気持ちを今すぐ求められても困る。
俺の中からチカが消えたわけでもないし。
トモとのつきあいは長いけど、恋愛的な何かで接したこともない。
最初のコメントを投稿しよう!