Dual

16/16

584人が本棚に入れています
本棚に追加
/606ページ
どう答えるべきか考えれば考えるほど無言になって。 トモは俺の腕に額をぶつけて寄りかかって泣いた。 俺はトモを振っているんだろう。 トモのこと嫌いというわけでもないのに。 だからって…クスリを妥協してやるのは、トモを更に甘やかすことになりそうで。 俯いたその頭を軽く撫でてやる。 クスリへの依存をやめるのが厳しいことなのはトモを見ればわかる。 自分に甘いだけ…というものでもないだろう。 アルコールもタバコも依存があるけど、麻薬や覚醒剤の依存のほうが強い。 「……まだチカのこと好き?」 トモは不意に聞いてくれる。 胸の奥に痛みが蘇る。 そういう聞き方は嫌かもしれない。 「…ミクのことは?忘れたの?」 トモは更に聞いてくれて、俺は溜め息をこぼす。 右耳につけっぱなしの赤いピアスにふれて、未だに夢をみるミクの姿を頭に浮かべる。 「……フラれたのは俺だ。誰を好きになっても、フラれてばかり」 俺の感情なんて、どうでもいいかもしれない。 別に…それでもいいけど。 一時の楽しさをくれたのなら…、そういうつきあいでも…いいのだけど。 満たされない。 「私はフラない」 「……つきあってみれば、俺の嫌なところたくさん見て嫌になるかもよ?」 「……フラない。コウが一番好き。他の女になんて渡したくない」 トモの手は俺の服を強く掴んで、少しだけ抱き寄せてやると、そのまま俺にしがみつくように抱きついてきた。 俺はその背中に腕を回して、軽く抱いてやる。 振っているのは俺なんだろう。 その気持ちがうれしいのは本当なのだけど。 トモがヘルスをやっていても、それがただの仕事なら俺は別に構わないのだけど。 クスリ……。 俺が考えるほど、それはトモにとって大きな問題ではないのだろうけど。 「クスリ、やめられたらな」 俺はもう一度言ってやる。 「今やってない」 「…二度とやるなって意味」 「やめる。だから…、もっとぎゅって抱きしめて」 「ダメ。半年やめられたら考えてやる」 「……半年で、ぎゅだけ?セックスするまで1年以上かかりそう。コウって本当、見た目と違って真面目」 「けなしてる?」 「誉めてる。半年…彼女つくっちゃだめ」 その俺を独占するかのような言葉に俺は苦笑いをこぼす。 本気でトモが俺の彼女になるためにクスリから離れてくれるなら。 考えてやりたい。 惚れてくれる気持ちをぶつけられるのが俺は好きだ。
/606ページ

最初のコメントを投稿しよう!

584人が本棚に入れています
本棚に追加