Story

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それはバイトの帰り道だった。 私はごく一般的な大学生をやりながら、ファミレスのウェイトレスというバイトをしていた。 今年でハタチ。 いたって平凡な大きな山も谷もない生活。 一人暮らしのマンションへ帰るために夜道を歩く。 夜道とはいっても、私の住むマンションは繁華街に隣接している。 飲み屋やカラオケなんかのネオンがこんな時間でも眩しいくらいに灯っている明るい夜道。 明るくはあっても、酔っ払いや夜遊びの若者がたむろっていて、普通の夜道より歩きにくいかもしれない。 私も若者ではあるだろう。 だけど夜遊びなんてしたこともない。 私はいたって真面目な普通の大学生だ。 狭い道を塞ぐような若者の集団に運悪く当たってしまって。 私は軽く迷惑を感じながら、その集団の横を通り抜ける。 と、私の髪が何かに引っぱられて。 痛みに頭を押さえて振り返ると、私の髪の束を小さく掴んでる若者が一人。 集団には関わりたくもないのに。 その男はその視線を髪をたどるように私へと向けた。 …知ってる人だった。 正確には知らないというのかもしれない。 でも知っている。 同じ高校だった。 同じクラスになったことがあるから覚えているけど話したこともない。 ない…のに、男は私に満面の笑みを見せて、いきなり私の肩を馴れ馴れしく抱いてきた。 生まれてこの方、こんなふうに男にふれられたことなんかないっ。 私はひどく焦って逃げようとして。 男は酒くさい息をしながら、なぜか私の髪に顔を擦りつけてくる。 そう。ただの酔っ払い。 私は通りすがり。 なぜか絡まれてしまった。 無言でひたすら男を私から引き離そうとがんばった。 高校の同級生ではあるけれど、はっきり言って知らないっ。 絡まれる覚えはないっ。 「髪、いい匂い。柔らかくてサラサラ~」 なんて言って男は私の髪に頭にキスしまくってくる。 私は悲鳴をあげて暴れてしまいたい。 知らない知らない知らないっ。 同級生だけど知らないっ。 話したこともないっ。 ただの酔っ払いだ。
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