Drug

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チャイムを鳴らすと扉は開けられた。 俺が何を考えてここにきたのかわかっていない家主のお出迎え。 にやけたその顔はいい感じにラリっていやがる。 「チカは?」 「寝室に転がしてる。…やる?」 煙草のような形のクスリを差し出されて、俺は軽く遠慮して。 まっすぐに寝室に向かった。 でかいデザイナーズマンション。 リビングの部屋と寝室の2部屋しかないけど、寝室は広い部屋ででかいベッドとソファーセットがおかれている。 部屋の中には男が5人。 全員イカれている。 部屋に充満するクスリの煙のニオイに俺もやられてしまいそうだ。 チカはベッドの上にいた。 腕を後ろ手に縛られた髪もぐしゃぐしゃの全裸で。 俯せになって咳き込んでいて、俺はチカのそばへと走り寄る。 まったくもって大切にされていた雰囲気はない。 俺はベッドに飛び乗り、チカの頭にふれた。 あたりには粉末が飛び散っている。 クスリだとすぐにわかった。 「チカっ、大丈夫か?粉、飲んだ?吐き出せ」 俺はチカの髪を軽く手櫛で整えるように撫でて、その腕を縛るガムテープを剥がす。 ビリビリに破いて、その拘束がとかれると、その体を抱き上げて、水の出る場所へ。 粉を吐かせるために口を濯げるように。 バスルームへと連れていって、その体をそこにおろすと、チカはすぐに蛇口に飛びついてくれた。 クスリをチカが欲しがっていたわけでもないのはわかる。 なりふり構わずといった感じで、ひたすら水を口にして吐き出す行為を繰り返す。 俺はその背中を少しだけ安心して撫でて。 チカが裸なのを思い出して、自分が着ていたコートを脱いで、その体にかけてやる。 チカは呼吸を荒くしながら、ぐったりとバスタブの縁に寄りかかる。 「誰がおまえをここに連れてきた?おまえが自分からここに乗り込んだんじゃないだろ?」 俺が声をかけてもチカは答える気力もないようで。 震えて頭を横に振るだけ。 忘れていたことを思い出させたのかもしれない。 「…悪い。おまえに聞かなくても、あっちにいるどれかに聞けばわかる。……犯された?髪…綺麗だったのに」 俺はチカの髪を労るように撫でて。 こっちを見ることもないチカのその目を閉じた横顔を眺めて。 今、俺ができることを考える。 考えたくはないけど。 逃げてしまいたいけど。 逃げるわけにはいかない。 チカを犯されて黙っているわけにはいかない。
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