584人が本棚に入れています
本棚に追加
チャイムを鳴らすと扉は開けられた。
俺が何を考えてここにきたのかわかっていない家主のお出迎え。
にやけたその顔はいい感じにラリっていやがる。
「チカは?」
「寝室に転がしてる。…やる?」
煙草のような形のクスリを差し出されて、俺は軽く遠慮して。
まっすぐに寝室に向かった。
でかいデザイナーズマンション。
リビングの部屋と寝室の2部屋しかないけど、寝室は広い部屋ででかいベッドとソファーセットがおかれている。
部屋の中には男が5人。
全員イカれている。
部屋に充満するクスリの煙のニオイに俺もやられてしまいそうだ。
チカはベッドの上にいた。
腕を後ろ手に縛られた髪もぐしゃぐしゃの全裸で。
俯せになって咳き込んでいて、俺はチカのそばへと走り寄る。
まったくもって大切にされていた雰囲気はない。
俺はベッドに飛び乗り、チカの頭にふれた。
あたりには粉末が飛び散っている。
クスリだとすぐにわかった。
「チカっ、大丈夫か?粉、飲んだ?吐き出せ」
俺はチカの髪を軽く手櫛で整えるように撫でて、その腕を縛るガムテープを剥がす。
ビリビリに破いて、その拘束がとかれると、その体を抱き上げて、水の出る場所へ。
粉を吐かせるために口を濯げるように。
バスルームへと連れていって、その体をそこにおろすと、チカはすぐに蛇口に飛びついてくれた。
クスリをチカが欲しがっていたわけでもないのはわかる。
なりふり構わずといった感じで、ひたすら水を口にして吐き出す行為を繰り返す。
俺はその背中を少しだけ安心して撫でて。
チカが裸なのを思い出して、自分が着ていたコートを脱いで、その体にかけてやる。
チカは呼吸を荒くしながら、ぐったりとバスタブの縁に寄りかかる。
「誰がおまえをここに連れてきた?おまえが自分からここに乗り込んだんじゃないだろ?」
俺が声をかけてもチカは答える気力もないようで。
震えて頭を横に振るだけ。
忘れていたことを思い出させたのかもしれない。
「…悪い。おまえに聞かなくても、あっちにいるどれかに聞けばわかる。……犯された?髪…綺麗だったのに」
俺はチカの髪を労るように撫でて。
こっちを見ることもないチカのその目を閉じた横顔を眺めて。
今、俺ができることを考える。
考えたくはないけど。
逃げてしまいたいけど。
逃げるわけにはいかない。
チカを犯されて黙っているわけにはいかない。
最初のコメントを投稿しよう!