Drug

8/12
前へ
/606ページ
次へ
寝室にはトモの姿はなくて、リビングのほうへいく。 こっちも寝室と同じくらいの部屋の広さはあって、キッチンとダイニングにもなっている。 一人暮らしするには広すぎる家だ。 カズはそれだけクスリで稼いでいるのだろう。 隠れられる場所なんて知れている。 その部屋から続くベランダ。 カーテンを開けてその扉を開けて外を見ると、そこにトモは鞄を抱いて座り込んでいた。 「……殴られたいんだよな?」 俺は何をどう声をかけるか少し迷ってから、そう聞いた。 「……いや」 トモは小さな声で答える。 その丸く小さくした背中が震えている。 12月の深夜。 外の空気はけっこう冷える。 寒さに震えているのか、俺に怯えて震えているのか。 俺はバスルームにおいてきたチカの姿を頭に浮かべて。 俺に好きだと何度も言ってくれた目の前の女を見て。 その丸くなっていた体を蹴った。 トモが態勢を崩してその場に転がるくらいに蹴って、その髪を掴んで顔を上げさせる。 トモは泣いて強く目を閉じて俺から顔を逸らす。 覚悟はしていたのだろう。 やめてと言うこともなく、強く抵抗もしてこない。 少し抗うかのように俺に向かって手を突き出している。 全身を震えさせている。 「…おまえは何をした?吐かないと顔殴るぞ」 「……全部…、全部、コウのせいだっ!あの女、大嫌いっ!ミクの次は私がコウとつきあえるはずだったのにっ」 「なんだよ、それ。俺は順番待ちの番号札なんて誰にも渡してねぇよ。おまえは何した?って聞いてるだろ。答えになってない。あっちの部屋にいる誰かに聞いてもいいけど。……おまえとは二度と関わらない」 「だって…、だってっ、コウ、どんなに言ってもつきあってくれないっ!」 「クスリやめてもいないのに?今、クスリやってるだろ?会話になってない。半年待てって言ったの誰だよ?やめるって何度言った?やめなかったの誰だ?」 責め立てるように言ってやると、トモは暴れて。 俺はそのトモの腹に膝を入れた。 トモは呻いて腹を押さえて踞る。 その頭を拳で叩くと、トモは頭を押さえて、俺から逃げるようにベランダの隅へといく。 軽くしか叩いてないのに。 腹にいれた蹴りは本気だけど。 いやだいやだとうわ言のように繰り返すトモの口からは、俺が聞きたい謝罪の言葉はない。 謝罪の気持ちはないのだろう。
/606ページ

最初のコメントを投稿しよう!

584人が本棚に入れています
本棚に追加