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寝室にはトモの姿はなくて、リビングのほうへいく。
こっちも寝室と同じくらいの部屋の広さはあって、キッチンとダイニングにもなっている。
一人暮らしするには広すぎる家だ。
カズはそれだけクスリで稼いでいるのだろう。
隠れられる場所なんて知れている。
その部屋から続くベランダ。
カーテンを開けてその扉を開けて外を見ると、そこにトモは鞄を抱いて座り込んでいた。
「……殴られたいんだよな?」
俺は何をどう声をかけるか少し迷ってから、そう聞いた。
「……いや」
トモは小さな声で答える。
その丸く小さくした背中が震えている。
12月の深夜。
外の空気はけっこう冷える。
寒さに震えているのか、俺に怯えて震えているのか。
俺はバスルームにおいてきたチカの姿を頭に浮かべて。
俺に好きだと何度も言ってくれた目の前の女を見て。
その丸くなっていた体を蹴った。
トモが態勢を崩してその場に転がるくらいに蹴って、その髪を掴んで顔を上げさせる。
トモは泣いて強く目を閉じて俺から顔を逸らす。
覚悟はしていたのだろう。
やめてと言うこともなく、強く抵抗もしてこない。
少し抗うかのように俺に向かって手を突き出している。
全身を震えさせている。
「…おまえは何をした?吐かないと顔殴るぞ」
「……全部…、全部、コウのせいだっ!あの女、大嫌いっ!ミクの次は私がコウとつきあえるはずだったのにっ」
「なんだよ、それ。俺は順番待ちの番号札なんて誰にも渡してねぇよ。おまえは何した?って聞いてるだろ。答えになってない。あっちの部屋にいる誰かに聞いてもいいけど。……おまえとは二度と関わらない」
「だって…、だってっ、コウ、どんなに言ってもつきあってくれないっ!」
「クスリやめてもいないのに?今、クスリやってるだろ?会話になってない。半年待てって言ったの誰だよ?やめるって何度言った?やめなかったの誰だ?」
責め立てるように言ってやると、トモは暴れて。
俺はそのトモの腹に膝を入れた。
トモは呻いて腹を押さえて踞る。
その頭を拳で叩くと、トモは頭を押さえて、俺から逃げるようにベランダの隅へといく。
軽くしか叩いてないのに。
腹にいれた蹴りは本気だけど。
いやだいやだとうわ言のように繰り返すトモの口からは、俺が聞きたい謝罪の言葉はない。
謝罪の気持ちはないのだろう。
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