Drug

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予測したとおりに、こんな時間なのに家のチャイムが聞こえてくる。 家主のカズは玄関まで出て、扉を開けることはなく。 知らない人間は入れないようにしているのかもしれない。 俺は少しは落ち着いて、飛び降りる気配もなくなったトモをそこにおいて。 カズが開けることのなかった玄関の扉を開けた。 こんな時間なのに、よく動いてくれたものだと思う。 公務員のはずなのに、まったくもって楽な仕事じゃないよなと思う。 カズが俺が玄関を開けたことに気がついたときには、何人もの警察が雪崩れ込んできて。 カズは俺の首元を掴んでくる。 恨み言でもその口は言っているのかもしれない。 俺の耳はよく理解しようとはしなかった。 すべての原因をこいつに押しつけてしまうことも可能だ。 俺の連れがこいつがばら蒔いたもので刑務所に入れられる。 俺はカズの服を握って。 八つ当たりのようにカズの頬に拳を入れた。 目の前に国家権力者がいても、一回殴ると止まらなくて。 止められるまで殴り続けてしまった。 俺に電話をした男が、トモが、チカが。 こいつに巻き込まれた。 別の見解もある。 けど、今はすべての責任をカズに押しつけて、殴り殺してしまいたい気分だった。 止められても殴り続けようとして、俺はクスリもやってないのに拘束されて捕まった。 被害者はチカだ。 トモたちに肩入れするものは何もない。 けど、でも……俺は売った。 それが悪いことだとわかってはいたけど。 チカのことを考えるなら、こうするしか他になかったけど。 売りたくなかったのが本音だ。 チカが被害に遭わなければ、俺はこいつらを売ることはなかった。 甘い。 わかってる。 その甘さでチカが被害に遭ったとも言える。 松田さんと出会ってすぐにこいつらを売ってしまえばチカは被害に遭わなかった。 ……どっちも大切だった。 「それで、その子どうする?こっちで保護するか?紫苑の友達なんだろ?」 松田さんは俺の腕の中のチカを見て言って。 俺はチカの家に送ってもらおうと口にしようとして。 家を知らないことを思い出した。 「…クスリ、無理矢理飲まされたっぽいから…。俺が預かるじゃだめ?」 「構わない。おまえには大きな情報を提供してもらったしな。ただ、強姦された彼女がおまえを怖がらないとは思えない。大丈夫か?」 俺は避けられることを考えて。 それを覚悟で頷いた。
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