Drug

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チカの背中を抱いて、その綺麗だった長い髪を撫でて。 大丈夫… いつか、チカが俺にかけた言葉に返事をするようにチカに囁いていた。 チカはそのうち意識がはっきりしてきたようで。 その体は震えて、俺から離れようとして。 俺はそれを引き留めるように、強くその背中を抱く。 俺の体が震えてきそうだ。 大丈夫… 言葉はそれしか出ない。 俺は何もしないから。 おまえを傷つけるつもりはないから。 俺に怯えないでほしい。 そんな言葉すべて言えなくて。 チカが俺の服を強く掴んでくれると、俺はチカの肩の上で泣いた。 ごめんと何度繰り返せば許してもらえるだろう? 許してもらえる気がしなくて、謝ることもできなかった。 トモも同じような気持ちで謝ることができなかったのかもしれない。 大丈夫… ひたすら繰り返して口にしていた。 チカに、俺に。 その体を強く抱きしめて。 夜が明けるまで、ずっと。 夜が明けると俺は仕事だ。 事情があって休むと連絡をしてもいいけど、チカが俺にずっとついていてと望んでいるわけでもない。 チカの顔に冷やした濡れタオルを当てて、その顔を見る。 腫れてきている。 休んで病院に連れていくべきかと思うけど。 チカが俺じゃない誰かに頼れるなら、そいつに連絡をとればいい。 とりあえず俺の服やバスタオル、朝食と昼食になりそうなものなんかをチカに用意して、家の鍵をわかりやすいところにおいて。 「仕事いってくるから、飯、食べたかったら食べて。風呂も勝手に入っていいから。着替え、おまえが嫌がる使い用途のない下着くらいしかないし、ノーパンノーブラででも俺の服着ておいて。あとは好きにしてくれていればいいから」 俺のコートを着たまま、踞るチカに言って。 俺はチカをおいて自分の家を出た。 帰るなとも、帰れとも言えなかった。 帰ってしまったら、きっと二度と俺の電話には出てもくれないだろう。 顔を合わせることもないだろう。 俺は自分の部屋を振り返って一度眺めると。 息を一つ吐いて、駐輪場においていたバイクで出勤。
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