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家に帰るまではただ不安だった。
これから先、どうしていくのか考えてみたり。
仕事に集中なんてとてもできなかった。
なるべく早くバイクを飛ばして家に帰る。
このあたりは繁華街。
渋滞回避のためのバイク。
車は車庫代も高いし維持費も高いから高校の頃から乗っているバイク。
車体がでかいから、車をすり抜けられず、原付が欲しいと思う。
「ただいま」
声をかけながら玄関を入り、即、チカがそこにいるか確認した。
チカは俺の服を着て、頭にパーカーのフードを被って、部屋の隅で三角座りで座っていた。
かなりダークなオーラが見える。
それでもトモのように自殺しようとしたり、どこかにいってしまわなくて本気で安心した。
そして。
チカがここにいるということは、俺は俺がチカにしたいことができるということだ。
「病院いって美容室いって服をチカんちから持ってきて…って、先に服かな。チカの下着ないし」
俺はチカにこれからどうするのか言ってみる。
チカは身動き一つなくて。
「チカ?」
俺はチカに近づいて、その顔を覗き込もうとして。
チカはパーカーのフードを袖から手の出ていない手で押さえて、更に体を縮めるように小さく丸くなる。
顔を見ようとフードを引っ張ると、チカはフードを押さえて抵抗してくる。
顔を見られたくないらしい。
「……腫れてるのか?昨日は時間外だったから病院行けなかったけど、病院いこ?俺に顔を見せなくてもいいから医者には見せて手当してもらってくれ」
俺はチカの顔をそれ以上無理に覗き込むこともなく。
家を出る準備を手早く済ませて、チカの指先を包むように握って、チカの家に向かう。
もっと抵抗されたら…とか考えたけど。
俺のいうことをちゃんときいてくれて、風呂も入って着替えていたし。
いこうって言ったら、指をさしてチカの家に案内してくれるし。
何も喋ってはくれないけど…。
指先はふれても震えていない。
俺が面倒をみるのは可能だと思う。
どうせチカは一人暮らしだ。
こんな形でチカの家を知ることになるとは…なんて思いながら、チカのニオイのするその部屋にあがらせてもらった。
チカは下着を探そうともしなくて、部屋の中で立ち止まる。
俺は勝手にチカのクローゼットを開けて。
もういいやと了承を得ることなく、チカの服をそこにあった旅行鞄に詰めていく。
連れて帰る。
しばらく一緒に暮らす。
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