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「加藤くん?」
チカの口からはその名前が当たり前のように出てきた。
俺は思いきり嫌な顔を見せたと思う。
「おまえ、隆太覚えてたのか?だから、あの時話してた?…いや、だけど…」
何かが納得できない。
そして、その名前がチカの口から出るのは微妙だ。
「別れてから一回会った。覚えてなかったけど、加藤くんが覚えてくれていたみたい」
いや、隆太も忘れていたか、チカを元カノの連れと思ってなかったように思う。
「……忘れてろと言いたい。あいつは呼ばない。おまえが狙われるから」
「加藤くんはどうして晃佑の彼女や元カノ狙うの?」
「……それ、俺の古傷えぐりたいってこと?」
チカは返事をすることなく、食べかけの食事の続き。
何かがずるい。
答えなかったら、俺がそこをかなり気にしていることになりそうだ。
「…昔、隆太の彼女が俺にアピってきて、そのまま手をつけて…、その彼女が俺に乗り換えてから始まってる」
「やっぱり女好き」
「女好きというよりも、女によく騙されるほうかも…。続きを言えば、その彼女は俺とつきあって1週間もたたずにまた乗り換えた、となる。…楽しいか?この話」
俺は溜め息をつきたい気持ちで答えてやる。
1週間もたたずに終わったのは、さすがに遊び…というか、遊ばれた?というかもしれない。
フラれてるのは結局、俺だし。
隆太と比べられたかもしれない。
そしてフラれたのかも。
「ピアスの元カノは?」
「これは…、隆太に奪われたほうだ。あいつは奪ってないって言うけど」
俺は右耳のピアスにふれて。
いい加減、ミクの置き土産をつけているのもなと、ピアスをはずす。
そのピアスを目の前に持ってきて、そこにミクにフラれたときを重ねる。
その痛みもここにチカがいるから少しはマシに思うけど。
まだ傷は膿んでいるのかもしれない。
痛い。
「俺、つきあった数は多いけど、本当にフラれてばっかりなんだよな。終わりの言葉はたいてい同じ」
「何を言われるの?」
俺の独り言のように呟いた言葉にチカは聞いてきた。
いつだったか、チカも俺を断ったときに言ったよなと思う。
『友達で』
……友達でいましょう。
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