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チカの回復祈願なんていう名目の、単なるクリスマスデートは実行された。
俺のじい様は人間国宝。
神社や寺を修復する大工を宮大工。
父親は普通にサラリーマン。
けど小さい頃から、じい様の仕事をしている姿を見て育ってきた俺は、そこに憧れみたいなものがあって。
少しでも近い建築関係の仕事に就きたかったというのが、今の鳶になった理由だ。
背はあるほうだけど、猿みたいに何気に運動神経がある。
俺はチカとのデートだったことも忘れて、しばらくその俺のじい様が修復したという建物を見上げていた。
まったくもって俺のやってることとは違う、じい様の世界。
小さい頃に見た、木材を鉋で削るその背中を思い出す。
かっこいいと思う。
未だに思う。
本当に職人だ。
俺は気が済むまで建物を眺めると、境内の中にチカを探して歩く。
それなりに大きな有名な神社だが、今日は人出も少ない。
俺があげたニット帽を被って、高い場所の枝に手を伸ばすチカの姿はすぐに見つけられた。
高い枝におみくじを結ぼうとしていたらしい。
俺はそれをチカから受け取って、チカが結ぼうとしていた枝に結んでやる。
「もう見るのいいの?」
チカは俺に声をかけてくれる。
「あぁ。なんだろうな?あの芸術。俺には真似できる気がしない」
「晃佑も家を建てたりするんでしょ?」
「会社はそういう仕事請け負ってない。ついでに俺は鳶やってる。何も建ててないと言えば建ててない。足場なんて作業が終わればなくなるものだしな神社仏閣みたいな代表的な木造建築。しかも木組み。寸分の違いもない同じ角度になだらかな曲線。…芸術だ。無理無理」
無理だと思うことだから、それをしてみせるじい様に憧れる。
かっこいいと思う。
俺には木造じゃなくても家を建てる技術なんてない。
家を建てる金もないけど。
チカは改めて建物のほうをじーっと見る。
「興味がなければおもしろくもないだろ?クリスマスらしくケーキでも食べにいくか?」
「……興味はなかったけど、晃佑と同じように見れたらいいなって思う。建築なんてまったくわからないけど」
そんなふうに言われると、ドキッとした。
同じように…何かを見て、何かを感じられたら…。
「……建物造りたいとは思わないの?」
「宮大工には憧れるけど。ログハウスくらいなら造ってみたいかも」
チカに似合いそうなナチュラルな家。
そのままのチカがやっぱり一番…美人だ。
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