Deep

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年末には知花は実家に帰ると言って俺の家を出た。 俺もとりあえず顔を見せにだけ実家に帰って、あとは知花もかまってくれないし、連れの誘いに誘われるがままにつきあった。 実家…とは言うけど、俺も知花もついでに隆太も、そこまで実家から離れてもいない。 いないが、それぞれ大学の都合で少しでも便利な場所で一人暮らしをしているといったところだ。 俺の場合はちょっと違う。 家だと自由にならないことが多くて、ずっと一人暮らしをしたかっただけ。 自分で稼いで支払うからと高校卒業で家を出た。 仕事も連休。 オールで遊んで昼に寝て、夜に呼び出されてまたオール。 去年もきたニューイヤーイベントに誘われて、大晦日をそこで飲んで騒いで過ごす。 みんな暇人なのか、人数の多い忘年会といったところか。 「コウちゃん?」 なんて声をかけられて振り返るとミクがいた。 相変わらず黒い長い髪をして、サイドだけ後ろにあげた髪型。 大きな目は俺を見てうれしそうに笑う。 知花がいてくれて忘れていたものを思い出した。 知花には言わせていないから、最後に俺にその言葉を言って別れた女。 「久しぶり」 俺は何も気にしていない顔を見せて挨拶をしてやる。 そう。俺、友達でいましょうと別れて、連れに戻ったことがなかったりする。 いや、会えば少しは話すけど、それ以前のようには振る舞えない。 連れの顔なんて元カノにはできない。 軽いものだったかもしれないけど、俺は確かにそこにいる彼女に惚れてつきあっていたつもりだから。 それ以外の顔なんて、もうなれない。 「久しぶり。元気だった?全然会ってなかったよね。コウちゃんの彼女、どの子?」 俺に彼女がいない時期は本当にまわりにはめずらしいことのようで。 いるのが当たり前のように元カノにも聞かれる。 「今、彼女いないって。おまえは?隆太落とせた?」 隆太からは一言もそんな話を聞いたこともないが。 というか、隆太にはそんなつもりが一切ないのは話していてわかる。 「全然だめ。リュウちゃん、彼女いないのに、どれだけ押してもすり抜けちゃう。なんであんなにカタイの?」 それはおまえが俺から隆太に当たり前のように乗り換えたと見せるからだ。 なんていう理由はわかっている。 隆太は軽い女は好きじゃない。 軽く言われるのが好きじゃない。
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