Deep

8/16
前へ
/606ページ
次へ
はっきりとした決断はできなくても、俺は一緒に住んでいたいし…。 なんて、けっこうな我が儘なのかもしれない。 彼女…のほうがいいけど。 彼女じゃないほうがいいような気もする。 迷っているから、余計に真剣に口説けと言われても、その言葉が出なかったのかもしれない。 ミクとつきあえば簡単に捨てられはするけど、特に何かを考えてつきあうことはない。 なんというか楽だ。 知花より波長があっているのか、悩むことはなにもなくつきあえる。 いや、それでも簡単に捨てられるんだけど。 あいつのことだから、また別の男か、やっぱり隆太がいいとでも言って捨ててくれるだろう。 ……なんか、どっちもどっち? 誰とつきあっても…、結局は何か物足りなさを感じて、足りない何かを埋めるように一生懸命つきあって…、それでも足りなくて。 満たされる時間がまったくないわけでもないし。 繰り返してきた短い恋愛。 また俺の頭の片隅には知花の姿が浮かぶ。 俺はどうしようもないくらいに知花に愛されたいらしい。 そんな諦めきれない自分に溜め息をついて、フラれてしまえば諦めきれるのかなと思ったり。 うだうだと結論の出ないことを考えながら、一度きたことのある知花の家に到着。 俺の住むワンルームより収納が多くて、そのぶん部屋が少し狭いと思うワンルーム。 チャイムを鳴らすと知花は出てくれて。 俺はその家にあがって、荷物をまとめている知花を見る。 はっきりした返事ももらっていないが、知花は俺と住んでくれるらしい。 本当にそれでいいのかと確かめたくなる。 そして…知花は何を考えて、何を思って、俺と住んでもいいと思ってくれるのか聞きたくなる。 俺に流されてくれるのはわかるけど。 答えは口に出して言ってもらわないとわからない。 「……なぁ、知花」 「なに?」 「…俺と戻るつもりない?」 俺が聞いてみると、知花はその荷物をまとめる手を止めた。 フラれたら…何を言おうか? 間に合わせでいいから、とりあえず?もう一回? …また軽いとでも思われそうだ。 どう言えば知花を納得させられるか考える。 求めたい言葉ばかり浮かぶのに、自分の口から紡げない。 甘えた言葉ばかり俺の中にある。 一緒にいて。 俺を愛して。 …情けない。
/606ページ

最初のコメントを投稿しよう!

584人が本棚に入れています
本棚に追加