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「晃佑は?私と戻ってもいいの?」
知花は俺を振り返って聞く。
電話で言いだしたのは俺なのに。
俺が聞いているのに。
「……また俺はおまえの意思を見れないのか?」
俺は知花と別れたときを繰り返している気がしながら言った。
こんなふうに嫌だと思うこともある。
ある…けど。でも…。
やっぱり俺はミクといたほうがいいのだろうか?
ミクとのつきあいの中でこんなこと思ったこともないし…。
「戻りたい。でも、まだ私は…晃佑にふれられて悲鳴をあげるかもしれない。えっちはたぶんできない」
知花はその意思を俺に聞かせてくれた。
「…俺のこと好き?」
俺は甘えた気持ちで聞いた。
知花は俯いて。
「…好き」
小さな声で言ってくれた。
うれしい…けど。
自分がどんどんわからなくなってくる。
どこまで何を求めているのか。
俺はありがとうとか、そんな言葉も出なかった。
「……晃佑は?」
「知花と一緒にいるのは好きだし、戻りたいって思う。……正直に言ってみていい?」
知花は頷き、俺は言葉に迷う。
ミクと戻りたいわけじゃない。
知花がいてくれるのなら…。
だけど…、俺が聞いたからとか、言ったからとかじゃなくて、知花が知花の意思で俺を求めてくれないなら、きっとまた繰り返す。
俺が求めすぎて、また足りないと言ってしまう。
つきあったら、そこに線をおけない。
元カノとこういうつきあいをするのは初めてだし、戻ろうとするのも初めてのこと。
3ケタ近いつきあいはあっても、知花とのつきあいは俺にとって初めてのことばかりですべてにおいて戸惑う。
「このピアスの元カノ、ミクにニューイヤーイベントで偶然会って、戻りたいって言われた」
俺は右耳の赤いピアスにふれてそう言ってみた。
知花は答える言葉に迷ったように俺から目を逸らし俯く。
「…だったら…迎えに来ないでよ」
知花はどこか泣きそうな声で言って、俺が知花に預けたままだった、俺の家のスペアキーを床に滑らせた。
…知花はミクとは違う。
わかってる。
だけど、そこでひかれたら、これからもまた繰り返す。
俺から離れたくないくらいの意思をもっていてほしい。
依存するくらいでいい。
…なんて、俺が依存しているからだろう。
おまえしかいないとは言わない。
だけど、今の俺には、おまえしか、いらない。
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