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「……なぁ、知花。俺のこと好きなら、もっとおまえに引っ張れよ」
「また妬かせたいの?…晃佑は引っ張ってくれるなら、そっちに傾くって言ってない?私でも、その元カノでも、どっちでもいいって言ってない?」
それは……あるかもしれない。
おまえしかいらないけど、おまえが求めてくれないなら…とか。
つきあわなくても性欲処理の彼女にはミクがなってくれる…とか。
否定はできなくて、知花は泣いた。
俺が甘えて泣かせてる。
俺が甘えたものを見せると、いつもどうしても、うまくいかない。
でもな、俺だって何度も同じ別れを繰り返したくない。
…なんて言えば、俺が別れの言葉を告げたくせにと言われそうだ。
俺は溜め息をつきたい気持ちで、とにかく知花を泣き止ませないととは思って、知花に近づいて、その頭にふれる。
「……ごめん。甘えた。俺んち、帰ろう?……ごめん。知花、帰ろう?」
俺はもうそこを考えなくていいからというように、その頭を撫でながら声をかける。
俺の家で暮らそうとは思ってくれていたし。
もうそれでいい。
それ以外を求めたら、またこんな喧嘩みたいなことになる。
好きとは言ってもらったし、それ以上はもう求めない。
知花はその腕を俺の背中にのばして、強くしがみつくように抱きついてきた。
求められているような気がして、少し安心したのも束の間。
「……晃佑はその元カノを忘れられていなかったでしょ?一緒に暮らさないほうがいいと思う。……前にも言ったと思うけど、晃佑が本当に好きになれる人とつきあってほしい」
俺の胸を突き刺すようなことを言ってくれた。
ミクのことを忘れられなかった…のか。
確かに夢には見ていた。
いつもミクが夢に出ると目覚めたときの気分は悪い。
それは…だから…、あいつがああいう奴だと深く知らなくて。
そのすべてが本気だと思っていたから…。
ただの遊びだったんだと理解して、それ以前のつきあいよりも傷ついたのは確かだ。
けど、でも…、そんな失恋の痛みを知花に聞かせて理解されたくないとも思う。
痛むくらいに好きだったんだろと言われそうだ。
でもな、今、俺の胸が痛いのは、知花が俺が思うような気持ちをくれないで、そうやって俺を簡単に離せるとみせること。
俺はそんな言葉を言ってほしいわけじゃない。
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