584人が本棚に入れています
本棚に追加
「……俺は…おまえといたいって言ってる」
「荷物、取りにいかなきゃ。晃佑の家、行こうか?」
「会話になってないっ」
「……いっぱい甘えさせてくれてありがとう」
「知花…。ちょっと待てって。だから…、そうやってすぐ…」
俺が言いかけた言葉を止めるように、知花は俺から少し離れて、俺の顔を見る。
そうやってすぐ、話題を逸らすなよっ。
俺が好きなら、俺が欲しいと求めていてくれと、他の誰かには渡さないとみせてくれと、そんな気持ちを求めているだけなのに。
知花は俺の唇に軽くキスをして。
「いこ?」
笑って言いやがった。
俺が求めると、甘えると、どうしてこうなるのだろう?
知花の気持ちを無視したように強引にいけば流されてくれるけど。
その意思が欲しいだけなのに。
知花と手をつないで歩く道は無言で。
俺はかける言葉が浮かばない。
何を言えば、どう言えば、俺が言いたいことが伝わるのかわからない。
俺の家について、荷物をまとめている知花の背中を見ると、何かを言わないと本当にこのままいなくなりそうで。
俺は必死に言葉を紡ぐ。
「……知花、ここに…いて?」
また甘えた言葉しか出てこない。
求めてばかり。
「私も何か置き土産していく?そうしたら晃佑に忘れられることないかも。何人もの元カノの中で、これをおいていった元カノって覚えていてもらえそう」
そんなのいらない。欲しくない。
そんなことしなくても、知花とのつきあいは初めてのことばかりで嫌でも忘れられるはずがない。
「なんで戻ろうって話をしたのに、こうなってんだよ?」
「ねぇ?迷ってるのは晃佑でしょ?迷うくらいならやめておけばいいって思わない?無理につきあう必要はないって思わない?………あ。そう思ったから、彼女じゃなくてもいいって言った?」
無理に…つきあう必要はない。
その通りだ。
こんなふうになるから。
わかっていたのにそこを求めた俺が馬鹿だった。
「思った。迷ってる。けど…、おまえを手離したいって思ってるわけじゃない。おまえがここにいるなら、ミクと戻るつもりはない」
「…私、きっと彼女としては失格だよ?そのミクさんは晃佑のまわりの人に嫉妬をたくさんしてくれるんでしょ?私とは違って、晃佑に好きってたくさん言ってくれるんでしょ?……だから、私にそれを求めたんでしょ?」
最初のコメントを投稿しよう!