Deep

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わかっているかのように、知っているかのように言われた。 言われてみると確かにその通りだった。 知花に求めてきたことはミクがしてくれたこと。 俺はミクのあり方に惚れていたらしい。 だけど…、わかってる。 もうわかってる。 ミクのそれは遊びの範疇だったこと。 ずっとずっと、そんな恋愛の繰り返し。 いいけど…。 だけど…。 俺だって深く愛されたいと望む。 そういうふうにつきあいたいと望む。 望んでも女は俺をそんなふうには見ない。 俺は知花に何も答えられずに俯いていた。 泣きそうだ。 俺の引き留める言葉は何も届かずに、違うトゲが突き刺さりまくる。 知花はその荷物をまとめきって。 鞄を手に玄関へ向かう。 俺はその背中を追いかけるように立ち上がって、どうしても諦めきれないその腕を掴む。 これが引き留める最後にしないとと思った。 あまりに俺もしつこすぎる。 どんな言葉でなら引き留められるのか、もうわからない。 「もう甘えないから。一緒にいよう?」 わからないながらも。 求めないようにするから、ただ一緒にいてくれと言った。 それだけでも…いい。 それしか望めないのなら、それでいい。 気持ちがほしいけど…、俺は求めすぎてしまうから。 知花は俺を振り返り、鞄を持つ手とは逆の手で俺の頬にふれて、俺を見上げてくる。 俺は知花の返事を聞くように、黙って知花を見ていた。 知花の俺の頬にふれる手は、何が気に食わないのか、俺の頬を摘まむ。 「泣いて」 って。 また返事にならないことを言われた。 更に泣けと。 「……これ以上、おまえに醜態晒したくないのにっ」 俺は思わず喚くように声をあげる。 今だってじゅうぶんかっこ悪いとわかってる。 出ていくなら出ていけとやってみせたほうがかっこいいだろう。 すがって泣きそうになってるなんて、本気で情けないと思う。 「お願い」 「そんな願いはきいてやりたくねぇよっ!」 俺はこんなときにそんなお願いをしてくる知花に悔しくなって、本気で泣きそうになる。 泣いたら引き留められてくれるのかとか、それはかっこ悪すぎるとか、そんなこと思って。 知花の指先は俺の目の端に少し滲んだ涙にふれる。 片目を閉じて、その指先を感じていると、俺の目の前、知花が笑顔を見せる。
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