Deep

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その笑顔が好きで。 抱き寄せて、もう強引にいってしまおうとした。 強引にいけば知花は俺に流されてくれる。 流されてくれるのは、俺に合わせようと少しでもしてくれているから。 合わせてくれるのは…。 知花の家で聞いた知花の好きといった声を思い出す。 だから…、それで…いい。 「友達ならなれるかな?」 俺の思考回路、その一言でプツリと途切れた。 何を考えていいのかわからなくなった。 「電話、またして?寂しかったら呼び出して。行くから」 知花は連れとしてならつきあうと笑顔で言ってくれて。 俺の目には何を考えるでもなく、涙が溢れて。 堪えても堪えても溢れてきて。 「……おまえもそれ言うの?……なんで、俺だけの女になってくれない?」 口を開くと堪えきれずにこぼれて。 知花は俺が泣くとは思っていなかったかのように、鞄をその場に落として、慌てたように両手で俺の頬を拭う。 ……最悪。 本気でかっこ悪すぎる。 いくら知花には絶対に言われたくない別れの言葉だったとしても、泣くのはかっこ悪すぎる醜態。 俺は知花の腕を掴んだまま、その場にずるずると崩れ落ちた。 甘えて泣いて、俺は子供かと自分に言いたい。 どう考えても、こんな俺に知花が惚れて執着してくれるはずもないと思う。 だけど知花は崩れ落ちた俺に合わせるようにその場にしゃがんで、その腕の中に俺の頭を抱き寄せてくれる。 泣いて、かっこ悪いけど。 俺はそんな知花の腕が好きらしい。 額を甘えるように知花の体にぶつけて顔を隠す。 「……また醜態晒してる。最悪」 「…泣かなくても、私の心は晃佑だけのものだよ。晃佑以上に好きになれる人なんて、きっと見つけられない。私は晃佑が思うより、きっと晃佑のこと大好きだよ」 知花はそんな言葉を吐いてくれて、泣いたばかりなのに喜んだ俺がいた。 それ。それが聞きたかった。 そういう気持ちが聞きたかっただけ。 そういう気持ちでいて欲しかっただけ。 それを聞けると、俺と戻るのも、ここで暮らすのも、なんの問題もないじゃないかと逆に怒りそうだ。 「でもね、晃佑はそんなんじゃないでしょ?」 知花はそう続けてくれた。 知花の中の問題は俺の気持ちらしい。 「……俺の気持ちが軽いって言ってる?」 俺は微妙に不機嫌に聞いてやる。 軽く見られることには慣れているけど。 知花に言われるとムカつく。
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