Deep

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「……恥ずかしいな、これ。もう言わない」 俺は本気で照れまくって言ったのだけど。 「もっと言ってくれないと帰る」 なんて知花は言いやがる。 なんの虐めだ? 恥ずかしいから嫌だって言ったのにっ。 「おまえは俺を虐めるのが好きだろっ?」 思わず言ってやると、知花は何も答えず。 図星なのかもしれない。 俺を虐めるのが好きだなんて、うれしくない。 うれしくないけど…。 知花は何かを答えるかわりに、俺の目をまっすぐにじっと見つめてきた。 その目にじっと見られると、何かさっきよりも恥ずかしくなった。 必死すぎる自分を知花に見せまくりで。 これで俺の気持ちが問題だとは思われたくないと思う。 つきあったどの女よりも知花だけを必死に引き留めて追いかけている。 そこにどうしてなのかと理由をつけるのは難しい。 ただ好きなだけ。 離したくないくらいに。 あまりに知花が俺をじっと見てくれるから、俺はその目のあたりに手をおいて、知花に目隠しをする。 たぶん、きっと、そうやってじっとまっすぐに見られるのも、恥ずかしいけど好きなんだ。 「…好き。こんなどうしようもない俺だけど、もう一回つきあおう?」 俺はもう一度、真剣に知花と戻りたい気持ちを告げた。 本当にどうしようもない、かっこ悪い俺ばかり見せてしまっているけど。 おまえに惚れられていたい。 おまえに惚れていたい。 フラれた。はい、さよならなんてできない。 知花の口元はうれしそうに笑って、こくんと頷いてくれた。 ただ、頷いてくれただけだけど。 ものすごくうれしくて、ものすごく愛しくなって。 俺は突き放されるかもしれないと思いながらも、その唇にキスをした。 知花は俺を突き放すことはなく。 俺の唇にその唇を押し当ててきて。 俺は甘い気持ちに満たされる。 目隠しした手をずらして、その頭の後ろにあてて、ゆっくりとふれるだけのキス。 薄く目を開けて知花の顔を見ると、閉じた睫毛が見えて。 俺はもう一度目を閉じて、そのキスに酔う。 俺ばかり惚れるのは悔しいから、知花も俺に惚れて。 俺が思うよりも深く。 俺はきっとおまえが思うよりも惚れているから。
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