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知花がバイトでいない夜、うたた寝をして。
久しぶりにミクが出てくる夢を見た。
なんでこいつを夢にみるのかと考えてみると、ミクが何も言わなくても俺を理解して、俺の望むことをしてくれていたからだと思った。
いや、してほしくないこともあったけど。
だから夢の中のミクは俺を完全に理解した、俺にトゲを突き刺しまくる悪魔のような女になるのだろう。
夢の中の俺は笑って動き回るミクをただ見ていた。
『ねぇ、コウちゃん。コウちゃんの気持ちは簡単に切り替わるんだね。彼女になったら好きになるってお手軽』
ミクの言葉はきっと俺が自分に思っていることなのだろう。
『別に知花じゃなくてもコウちゃんの望み通りに動いてくれる人なら誰でもいいんじゃない?だって知花もコウちゃんを愛してくれないでしょ』
悪魔だ。
俺はミクに何を言わせている?
その夢を切り替えるように考えると、ミクの姿は俺の姿に変わった。
ミクは楽しそうに動いていたのに、俺は座り込んでジメジメした感じで。
足元に散らばるガラスの欠片にふれて、指から血を垂れ流している。
そうだよな。
こんな夢、自傷にしかならない。
だったら知花に会わせろ、夢!
もう一度切り替えるように考えると、その風景は高校の校舎になった。
俺は制服着た高校生で。
知花の姿を探すように校舎を歩く。
教室、知花の机。
まだある知花の鞄。
その机にふれて、また知花の姿を探して歩く。
廊下を歩くその後ろ姿を見つけて、俺は走って追いかけた。
知花。
俺の声は届いたのか、階段の踊り場で知花は立ち止まって振り返る。
息を切らしながら知花に追いついて、その顔を見ると、知花は笑う。
その笑顔に俺も笑顔になる。
『頭打ったの大丈夫?コブできてない?』
知花の手は俺の頭にのびて、後ろ頭を撫でてくる。
高校の頃の彼女に階段を突き落とされたあとの設定らしい。
『もっとちゃんと女心を理解しなきゃダメだよ?』
なんか説教くらってる。
俺が不満げな顔を見せると、知花は俺に投げ捨てたはずの深紅のピアスを差し出してきた。
『晃佑には青が似合うけど。青と赤でミクとお似合いなんじゃない?』
そこで目を開けた。
俺の家。俺の部屋。
夢の中の知花の言葉も…俺が思っていることなのだろうか?
俺は時計を見ると家を出て、バイトあがりの知花を迎えにいく。
うたた寝なんてもうしたくない。
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