Desertion

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さすがにけっこうな不満をいただいて、俺は知花にかける言葉がない。 謝ってほしいわけでもないけど、俺がこのままでいたいと思う気持ちをわかってくれていないのが悔しく思う。 嫉妬してくれなくてもいいから、せめて拾ってくるなと思う。 俺はどこに飛んでいったかも知らないし、知花が探してまで拾ってきたのはよくわかっている。 喧嘩をしたいわけではないけど、喧嘩になっている。 知花は俺が怒る理由がわかっているのか、気まずそうに俺を見るだけで何も言わない。 その状態のまま、俺は仕事に向かう。 帰ったら知花が理解してくれるまで、ひたすら元カノの置き土産なんて拾うものじゃないだろと言ってやろうと思う。 が、昼休み、携帯を開くとミクからの返信が入っていた。 今日にでも会えるということに、俺は今日会うことにして、待ち合わせ場所と時間を決めてミクに返信する。 返信しながら、知花が元カノの置き土産を拾ってくる理由なんて考えてみて。 俺が思うより俺に惚れてくれていないのかと疑う気持ちが出てくる。 信じているのだけど、その行動は疑える。 まるで俺にミクと戻れと言っているみたいじゃないか。 いや、言っている。 かなりムカつく。 ムカつくが、ピアスを捨ててしまえば終わること。 知花の知らないところで捨ててしまえばいいことだ。 あとは別に知花とミクが知り合いというわけでもないし問題はないはずだ。 疑っても…、その気持ちが軽いものでも…。 俺が知花に惚れているから…、別れ話にはしたくない。 最初の別れでものすごい喪失感をいただいた。 二度と俺から言うことはないと決めている。 俺が思うより、知花は俺に惚れていると信じて。 嫌になることもすべて乗り越えてやる。 仕事が終わると、俺はまっすぐにいつものように家に帰ることはなく。 単車をミクとの待ち合わせ場所へ走らせる。 家の近所の繁華街。 ミクとよく待ち合わせした大通りに面した広場。 単車をその前に乗り付けてメットを脱ぐと、ミクが即俺を見つけて駆け寄ってきた。 「コウちゃーんっ」 なんて大きな声をあげて、俺に飛びついてくる。 俺は単車に跨がったまま。 避けることもできずに抱きつかれた。 この妹みたいな犬みたいなところは好きだった。 なついてくれるその姿勢は本当に好きだった。 けど、正月に会ったときに、もう俺の中にはミクへの痛みもなくなっていた。
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