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少しはあるといえばある。
それはすべての元カノに共通しているもので、ミクが特別というわけでもない。
俺は背負った鞄の中からピアスケースを取り出して、それをミクに差し出した。
ミクは目を丸くしてそれを見て。
1年前のそれを思い出したらしい。
受け取った。
「うわー、懐かしい。これ、コウちゃんちに置いていた私のピアスケースだ?」
ミクはケースを開けて、そこに並んだピアスを見て、俺の耳を見てくる。
「あげるよ?コウちゃん、このピアス気に入っていたみたいだし」
「いらない」
俺は即答してやる。
「……なーに?新しい彼女できて?元カノのものだから?疑われるからいらない?」
ミクはどこか冷やかすように、わかりきったように言ってくれる。
「わかってるなら、それ返されてもゴミにするのもわかってるよな?」
「なによぉ、せっかくコウちゃんとデートできると思って、かわいい服と下着選んできたのにっ。彼女できたなんてっ」
「というか、メールで彼女できたことは伝えてる」
「なんでその彼女と彼女の間に私のこと考えてくれないかな?ずっとアピってるのに」
「なんでおまえは1月から今までで何人も彼女替えてると思ってるんだよっ。ずっと一人だよっ。同じ女っ」
ミクは驚いたという顔を見せてくれる。
一人と4ヶ月続いていて悪いかと喧嘩したくなる。
「コウちゃんなのに。順番待ちしてる子いるのに」
信じられないと言いたげに言ってくれる。
順番って…。
俺は番号札なんて渡してないっ。
「順番待ちしている女がいるとしたら、おまえは割り込んできてるよな」
「つきあうためにはタイミング掴むのも大切」
「俺にアピりつつキープしてる男がいたりしないか?」
図星をついたようでミクは黙った。
俺は溜め息をついて、ミクと戻らなくてよかったと心から思う。
1ヶ月で捨てられているところだった。
渡すものも渡したし、さっさと帰ろうとしたら、ミクは俺の腰に腕を回して引き留めてきた。
「……後ろには乗せない」
「じゃ単車おいて飲みにいこ?」
「彼女いるって言ってんだろうがっ。離せ」
「離さないっ。コウちゃん、あんまり冷たくすると、一人でイクだけイッて私を放置したとまわりに言ってやるからっ」
ミクはそんな脅しをかけてきて。
俺は正月のことを思い出して言葉に詰まる。
ミクに視線を移すと、にっこりと笑いやがる。
…知花の飯が食べたい…。
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