Desertion

7/20
前へ
/606ページ
次へ
少しはあるといえばある。 それはすべての元カノに共通しているもので、ミクが特別というわけでもない。 俺は背負った鞄の中からピアスケースを取り出して、それをミクに差し出した。 ミクは目を丸くしてそれを見て。 1年前のそれを思い出したらしい。 受け取った。 「うわー、懐かしい。これ、コウちゃんちに置いていた私のピアスケースだ?」 ミクはケースを開けて、そこに並んだピアスを見て、俺の耳を見てくる。 「あげるよ?コウちゃん、このピアス気に入っていたみたいだし」 「いらない」 俺は即答してやる。 「……なーに?新しい彼女できて?元カノのものだから?疑われるからいらない?」 ミクはどこか冷やかすように、わかりきったように言ってくれる。 「わかってるなら、それ返されてもゴミにするのもわかってるよな?」 「なによぉ、せっかくコウちゃんとデートできると思って、かわいい服と下着選んできたのにっ。彼女できたなんてっ」 「というか、メールで彼女できたことは伝えてる」 「なんでその彼女と彼女の間に私のこと考えてくれないかな?ずっとアピってるのに」 「なんでおまえは1月から今までで何人も彼女替えてると思ってるんだよっ。ずっと一人だよっ。同じ女っ」 ミクは驚いたという顔を見せてくれる。 一人と4ヶ月続いていて悪いかと喧嘩したくなる。 「コウちゃんなのに。順番待ちしてる子いるのに」 信じられないと言いたげに言ってくれる。 順番って…。 俺は番号札なんて渡してないっ。 「順番待ちしている女がいるとしたら、おまえは割り込んできてるよな」 「つきあうためにはタイミング掴むのも大切」 「俺にアピりつつキープしてる男がいたりしないか?」 図星をついたようでミクは黙った。 俺は溜め息をついて、ミクと戻らなくてよかったと心から思う。 1ヶ月で捨てられているところだった。 渡すものも渡したし、さっさと帰ろうとしたら、ミクは俺の腰に腕を回して引き留めてきた。 「……後ろには乗せない」 「じゃ単車おいて飲みにいこ?」 「彼女いるって言ってんだろうがっ。離せ」 「離さないっ。コウちゃん、あんまり冷たくすると、一人でイクだけイッて私を放置したとまわりに言ってやるからっ」 ミクはそんな脅しをかけてきて。 俺は正月のことを思い出して言葉に詰まる。 ミクに視線を移すと、にっこりと笑いやがる。 …知花の飯が食べたい…。
/606ページ

最初のコメントを投稿しよう!

584人が本棚に入れています
本棚に追加