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やましいことはやましい。
けど、そのときに知花とつきあうとかそういう話もなかった。
ミクともつきあってはいなかったけど。
俺は言いふらされてもかまわないというほうに決めて、ミクをおいて帰ろうとして。
ミクはそれでも俺にくっついてくる。
引き剥がそうとしまくっていると、俺の携帯がポケットの中で震えて、知花の助けかと思って手にしてみると隆太だった。
俺はその電話に出てみる。
『飲みにいく?』
その隆太の言葉に俺は俺にくっついて離れないミクを見て。
「いく。おまえにいい土産がある」
『……おまえ、もしかしてミクと会ってるのか?』
隆太はいったい、俺のまわりの何をどこまで知っているのか。
そしてこいつがミクを振ることなく受け入れていれば、ミクが俺になつき続けることもなかっただろうと思う。
それでもミクのことだから、あっちの男、こっちの男と飛び回りそうではある。
隆太との待ち合わせ場所と時間を決めて、俺はミクを連れて移動。
「さっきの電話、リュウちゃん?」
「俺にかまってないで隆太を追いかけておけば?」
「リュウちゃん、かたすぎてキスもしてくれないもん。言葉や態度は軽いのに、キスしようとしたら止められる。えっちしたのに、本当に割りきられちゃってる。
…でもリュウちゃんもコウちゃんもかっこいいし。キスされてくれるコウちゃんでもいい」
「俺でもいいなんて言われても俺は嫌」
「…いい加減泣くよっ?フラれてるのは私だよっ?」
ミクはその目に涙を溜めて俺を見上げてきて。
俺は立ち止まると、一緒に立ち止まったミクの目元を親指の腹で拭う。
ミクはそれだけで堪えていた涙を溢して。
俺に甘えた顔を見せる。
本当、手のかかる妹みたいな女。
「俺を最初に振ったのはおまえだろ。隆太のほうがいいくせに、隆太がかまってくれないからって俺や他の男にかまってもらっているだけだろ」
「コウちゃん嫌い。なんで私のこと理解するの?言ってないのに」
「…俺は俺なりにおまえに惚れていたから。俺とは遊びでしかつきあえなかっただろうけど。…別れの理由におまえが隆太を持ってきたんだろ?」
「……ごめん。コウちゃんのこと、お兄ちゃんみたいに思って好きだよ」
俺は俯いたミクの頭を撫でた。
あのミクとの別れはミクなりに俺に気を遣った。
わかってる。
ただ、俺に惚れて欲しかった。
もう過去の話。
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