Desertion

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俺の頭を撫でる知花の指が気持ちよくて。 知花は俺を見ていて。 俺は夢で見た知花を重ねる。 あれはなんだろう? いつより抽象的な気がする。 だけど…、強く思った自分の気持ちを覚えている。 「おはよ」 知花は普通に挨拶してくれて、そこに夢で見た知花をまた重ねて。 俺は寝ぼけた目を擦ると、その体を離さないように、腰に腕を回して抱きしめた。 「……変な夢みた気がする」 ここにいるから。 大丈夫だから。 俺を信じて。 おまえを守るから。 ……なんか、ものすごく恥ずかしくなる。 いや、思ってるけど。 なんか恥ずかしい。 「どんな夢?」 知花が怯えていて、俺が守ろうとしていた夢なんて、恥ずかしくて言えない。 なんというかヒーロー気取り? …恥ずかしい。 「……秘密。…俺、どうやって帰ってきた?」 聞いてから、ミクと会っていたことを思い出した。 またミクに戻れといった態度を見せられそうで、どんな理由であれ、何か言いづらい。 浮気ではないけど。 俺は何をしていたのかつくることにした。 記憶のない間に何か余計なことを知花に暴露っていたとしても、そこに責任を持つ気はない。 矛盾した何かがあっても、知らぬ存ぜぬでとおしてやる。 幸い俺は二重人格じゃない。 …記憶喪失とはいえるけど。 「確か仕事で遅くなって…、そのまま隆太に飲みに連れていかれて…」 「加藤くんといたんだ?」 う…。 いたことはいた。 誘ったのは隆太だ。 「隆太だけじゃないけど。飲まされまくって……。……また記憶ない」 酔って記憶のない間のことは何もなかったことにしようと言ってやる。 「酔っ払い晃佑とえっちしてないよ?」 知花は何を思ったか、そんなふうに言ってくれて。 思えば記憶なくすほど飲んだのは久しぶり。 酔って記憶なくした朝に知花といて、セックスしてなかったことがないように思う。 酔ったら知花の体を欲しがりまくっていそうな知らない自分がこわい。 「着替えてもないし、よくわかる。……風呂、一緒に入る?」 俺は知花の体に顔を擦りつけてから顔を上げて、下から知花の顔を仰ぎ見る。 知花は頷いてくれて。 俺はまた少し知花の体に擦り寄った。 ミクのピアスが返却されていたことに気がついたのはそのあとのこと。 せっかく返してやったのにと思いつつ、またミクに会って知花に後ろめたくなるのも嫌だし、箱に戻しておいた。
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