Desertion

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自分が何をしたのか悩んだり考えたりして、どうすれば別れの言葉を言わせずにいられるのか考えたりして。 考えるのが嫌になって、知花のバイトの時間、俺はビリヤードをする。 集中した俺の目に見えるのは玉とラシャとキューの先。 考えるのは距離と角度と力。 一人ナインボールをひたすらしていた。 1から9の玉を順にポケットに落とすゲームをナインボールという。 9が落ちれば終了のゲーム。 1から9までノーミスでゲームを終わることをマスワリという。 シャツの袖を肘あたりまで捲って、ひたすらキューを振っていた。 同じ作業を繰り返すだけのロボットのように。 「コウ、飯は?」 隆太に声をかけられて、タップにチョークを塗りつけていた俺は腹が鳴るのを聞いて。 知花を待っても、また食べてきたとか言いそうで。 不満げに頬を膨らませて、キューを置いて隆太の作る飯を食わせてもらう。 言っても、そんな凝ったものは出てこない。 レンジで作るピラフとかインスタントラーメンとか。 コンロはないからレンジ調理のものばかり。 サラダくらいは手作りしてくれる。 「何かあったのか?無心にキュー振るなんて」 隆太はカウンターの中から俺の前にビールとパスタとサラダを出してくれながら聞いてくる。 俺は知花がこんな態度を見せてくれるのだけど…なんて相談はせずに黙々と食べる。 相談してもいいけど、何を言われても決めるのは俺で。 ネガティブなことを誰かに言われてしまいたくもない。 「別れの予兆みたいなものでもあったのか?コウにしては長く平穏な恋愛してると思うけど」 長く平穏な恋愛…。 刺激が足りない? 俺が物足りない? 俺は今の平穏な何事もない生活が好きなんだけど。 聞けないのに、聞きたい言葉や言いたい言葉は俺の中にいくらでもある。 捕まえ続けているのが不可能なら…、一度逃がして…また何度も電話でもかけて…落とす。 俺は離れたくない。 …けっこうな依存。 「無視かよ。もっとデートしていろんなとこいって、マンネリ気味を解消すれば?」 隆太は何かアドバイスみたいなことを言ってくれる。 知花と何かあったと思われているのがムカつく。 「それより、この前の飲み会で記憶飛ばしたけど、あの後なんかあった?」 「…おまえにミクとのつきあいを斡旋されたな」 話を切り替えたのはわかっているだろう。 隆太は答えた。 「それで?」
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